マンホールを開ける仕事が始まった。 
        まずは世田谷に出かけて、マンホールの蓋を道のあっちとこっちで同時に開ける。 
        開けるのには専用の道具があって蓋に大きな鍵を差し込み思い切り引っぱりあげる。 
        しかし、そう簡単に開くわけもなく鉄の棒で蓋のまわりをガンガンと叩く。 
        錆び付いたり砂が入って動かなくなっているものをこれで動かすのである。 
        それから再び蓋に鍵を差し込んで横にずらす。マンホールの蓋がなぜ丸い形をしているかといえば、開けたときに下に落ちないようになっているからだ。 
        これが、もし四角い形をしていれば、蓋は簡単に下に落ちていってしまう。 
        蓋が開いたら、今度はU字型に付いている鉄の梯子を伝って下に降りる。 
        道の向こうでも同じ仕事をしているわけでそのどちらか一方がライトを照らす。 
        その光が確認できれば穴は通じていることになり作業終了となる。 
        これを道に沿って延々と繰り返すわけで面白い、という類の仕事ではなかった。 
        マンホールには下水溝もあるわけで午後になると人が排泄したものが流れてくることもよくあった。 
        はじめは信じられなかったけれどしかし、下水なのだから当然である。 
        その匂いが身体に染み込んで部屋に戻ってくると 
        「おれは何をしているんだろう?」 
        とまたしても思った。 |