日本で唯一の屋根に椿の木を植えた店舗から作家、社長、杜氏である谷口英久が綴る抱腹絶倒の「Blog」 |
デパートのエレベーターに乗った。
入り口に若い女の子が二人いて、ドアの開け閉めのボタンを押してくれている。 押しながら二人で話している。 「同じ部屋の人がさ、37歳で、歳なんだけどォ、休みなのに朝八時から起きるからさぁ、たるくって。やってらんねー」 とボタンを押すほしているほうの女の子。 動作は素早い。 「八時ィー? 八時に起きてなにすんの?」 と、もう一人の女の子が言った。 ぼくが今朝起きたのは五時半だけど、それを今ここで言ったら、なんていうんだろうか? (早起きは良いですよ) そう思ったけれど、なんと言っていいのかわからないうちに女の子たちはエレベーターを降りていった。 comments (6) : trackback (x) : PAGE UP↑↑↑
朝起きると、バカ犬(別名、看板犬テツ)が家に上がって
囲炉裏の脇の座布団の上で寝ていた。 クッションに顔を突っ込んで顔を隠すようにしているのは朝日がまぶしいからなのか? しかし家に上がって寝るのは約束が違うので、叱らなければいけない。 たいていは、頭を引っぱたかれて、しっぽを下げて玄関に戻る。 それで、夜中に人間が眠ったあとで、一人になってから家の中に上がってきては眠るらしいんですね。 お気に入りは囲炉裏のわきの座布団で、ここで寝ていることが多いんです。 バカ犬が若いころはぼくが起きてくる音を聞いて、急いで自分の寝床に戻って「寝たふり」をしていたんですが、近頃は歳を取って耳が遠いからか、ぼくの起きてくる音も聞こえないらしい。 頭をはたくと、(へ?)というボケボケの顔でぼくを見ます。 さらに(ここどこ?)という顔で部屋を見渡しています。 困ったもんだなあ、おい。 長生きしてくれよ、おじいちゃん。 補聴器買ってやろうか? comments (3) : trackback (x) : PAGE UP↑↑↑
久しぶりに英語の勉強をした。
ところが、先生が何を言っているのかちっともわからない。 「ハウ アー ユー ?」 と訊かれて (?) という状態。 あれ? 何言っているのかなあ? まあ、きっと挨拶だろうなあ、と思って (アイム ファイン。バット リル ビット タイアード) と答える。 先生は変な顔をしている。 あれ、おかしいことを言ったのか? でもたしかにそうなんだ。 勉強ができて嬉しいのと、暑さで疲れてへとへとの状態が一緒になっている。 「言っていることがわからないなあ。ファインと言っているのにタイアードってどういうこと?」 と先生に言われた。 そうなんだ。ぼくは今、英語を話しているんだよな。日本語なら、こういう曖昧な表現も通じるんだろうけど、英語だから、そうはいかない。 日本人は、(ぼくは、)悪い感情を表に出してはいけないと思っているから、 「具合が悪い」 とはなかなか言えない。 そこでまずファインと言って、そのあとでタイアードと言ってしまったんだろう。 つまり本音がチラッと出てしまったわけである。 挨拶でも、本音と建前が錯綜するわけか。 面白いなあ、と自分の言ったことを考えているものだから、先生の言うことがまるで耳に入ってこない。 一生懸命に耳を傾けて集中して、ようやく半分くらいわかる状態。 汗をかいてシャツが濡れたようになっている。 授業は40分だから、まだあと30分もある。 三人のクラスなのに、今日はぼく一人だ。 以前はこのクリス先生と冗談を言って笑えたのに今日はそんな雰囲気はまるでなくなってしまった。 やれやれ。まあ、とにかく頑張ろう。 二十分が過ぎたあたりから、耳のつかえが取れたようになった。 (あれ? わかるなあ。先生の言っていることがわかるようになってきたぞ) と思う。 不思議だなあ、いったいどうなっているんだろうなあ? 俺の頭の中は。 そこで一発、冗談をかましてみる。 先生も乗ってきた。嬉しそうに笑っている。 これだよな、と思った。 comments (6) : trackback (x) : PAGE UP↑↑↑
冷蔵庫をのぞくと茄子とキュウリがあった。
今日はお盆である。 茶箪笥から爪楊枝を出して、まず茄子に足をつけた。 茄子のヘタが上を向いたほうが良いのか、下を向いたほうがいいのか、しばらく考えてみる。 そりゃ上を向いたほうが良いに決まっているよ、と思う。 続いてキュウリ。 こっちも胴体が反るように足を付けた。 冷蔵庫で冷えていた茄子とキュウリは、台所で汗をかき始めた。 うっすらと、細かい汗が茄子のすべすべした肌に浮かんでくる。 これをお盆に載せて、あとはお米だ。 お米がない。うちでは玄米を食べるので、白米の取り置きがない。 しかもご飯は昼間、工場で食べるので、家には玄米も置いていない。 まあ、いいか、ということになった。 本当なら昨日、お墓に行かなければいけなかったのだ。 ところが仕事と私事が一緒になって、とうとうお墓まいりには行けなかった。 それで今日は早めに家に戻って、お墓にうかがうことになった。 茄子は牛、キュウリは馬の見立てで、ご先祖様はこの牛と馬の背中に乗って家まで帰ってくる。まずお墓にこの牛と馬をお供えしたあとで、家の玄関に灯火を点ける。 ご先祖様はその火と煙を見て家に帰ってくる、と言われている。 歩いてお墓まで行きたいところだけど、犬もいて荷物もあるので 「車で行こうよ」 と妻と話した。 車の荷台に茄子とキュウリの載ったお盆を置くと坂道で滑って座席の下に落ちてしまう。 車を停めて、それを拾いなおす。 お寺に行ったら、水で洗い直すことにしよう、と思う。 ご先祖さま、ごめんなさい。 お墓でしばらく風に吹かれた。 卒塔婆が風に揺れている。 そうだ、龍吉おんじいのところにも線香をあげていこう。 実恵もどうしているだろう? お墓の中を廻って、もうこの世にはいない人たちに線香を手向けた。 ここにいるあいだは、それぞれの人たちと話しているような気分になる。 家に帰って、玄関に灯火をつけた。 西の空が夕焼けに染まっている。 空を見上げて、ぼんやりした。 comments (5) : trackback (x) : PAGE UP↑↑↑
東京から戻ってきた妻が「天むす」を買ってきてくれた。
「天むす」は名古屋名物のおにぎりのことである。 小さなおにぎりに、海老の天ぷらが載っている。 昔は名古屋に行かないと買えなかったけれど、今では東京でも買うことができる。 「天むす、買ってきたよ」 と妻に言われて、妻のかばんの中を探してみた。 ふだんは何も探せないのに、こういうものはすぐに見つける。犬になったような気分である。 冷蔵庫に入れてあったらしく触ると固い。そこで電子レンジで温めてみた。 今度は熱すぎる。 どうしてこう、丁度良い加減にならないのかなあ? と一人で思う。 「温め、弱」にしても、ぼくには熱い。「弱の弱」という機能を付けたらどうか? と思う。 俺が社長ならそうする、と妻に言うと 「あんた、社長じゃないから」 と言われた。 食べるとカレーの味が、したように思った。 勘違いだろ? と思いながらいろいろなことを考えた。 電子レンジで前にカレーを温めたので、おにぎりにカレーの味が付いたんじゃないか? と思った。 しかしカレーなんて食べていない。 変だな? と思っておにぎりの包まれていた袋を見ると「カレー味」と表示されている。 犬が来て、 「それなーに?」 と訊かれた。 「カレー味の天むす」 と言った。 「ちょーだい」 と言うので、人差し指くらいの大きさだけあげた。 「もっと、ちょうだい」 と言うので、 「いやだ」 と言った。 カレー味と天むすが頭の中でうまく合わないので目をつむって、カレーの味が消えるように、と思うようにしてみた。 消えなかった。 comments (3) : trackback (x) : PAGE UP↑↑↑
仕事をしていると妻が電話を持って工場にやってきた。
いつも写真の現像をしてもらっている写真工房のS木さんだという。 (今、手が離せないので、あとで掛けます)と言ってもらった。 日記が一ヶ月近く更新されていないので心配になって、電話をくれたのだそうだ。 (申し訳ないなあ) と頭が下がる気持ちになった。 一段落してからS木さんのところに電話をした。 今はデジタルカメラが全盛で、フィルムを使う人は、ほんとうに少なくなってしまった。 ぼくはモノクロの写真が好きで、今でもカメラにフィルムを入れて使っている。 焼酎の仕事をするまではフィルムも自分で現像していたけれど、今は時間が取れなくて、S木さんのところにお願いをしている。写真を現像して貰って、さらにそのベタ焼きをお願いする。 こういう工房もほんとうに少なくなって、S木さんの収入も大変だ、と店に伺うたびに聞いて心を痛める。 技術があって、良い現像をしてもらえるところは、そう多くはない。 しかも現像してもらったものを取りに伺いながら、小一時間話すのも楽しみである。 工房は恵比寿にあって、飼い犬のテツもときどきは連れてゆく。するとテツにまでなにかおやつを買いに奥さんが近所のコンビニまで走ってくれる。 「大丈夫ですか?」 とS木さんに電話口で訊かれた。 「まあ、こうして電話に出られるので、大丈夫でしょう」 とぼくは答えた。S木さんが笑ってくれたので一安心。 日記で連載をしている話を毎日楽しみに読んでくださっているという。 「ただであんなものを読ませていただいて、ありがとうございます」 と言われた。 「あんなものを楽しみに読んでくださる方がいるなんて、思ってもみませんでした」 とぼくは言った。 話が複雑で、しかも訳のわからないものなので、途中で読むのをやめてしまう人が多いように思っていた。 この一ヶ月は、昔にさかのぼって原稿を読んだのだと言っていただいた。 ありがとうございます、と何度も言った。 comments (9) : trackback (x) : PAGE UP↑↑↑
雨が降ってきたけど、傘がなかった。
きょろきょろしたら、捨ててある傘を見つけた。 ゴミ箱に捨ててあるのだから拾っても構わないだろう。 開くと骨が折れているものの、まだ充分使えた。 そのうち大雨が降ってきて、その傘をさして部屋まで帰った。 アパートの玄関の軒下におじさんがいた。 おじさんは空を見上げている。 「傘、ありますか?」 と聞いてみた。 「ないから、こうして待っているの」 とおじさんは言った。 「それならこれを貸しますよ」 そう言っておじさんにその傘をあげた。 「ありがとう、ありがとう」 おじさんはそう言うと、大雨の中、その傘をさして出ていった。 comments (7) : trackback (x) : PAGE UP↑↑↑
「それで私もハッとして、「テツ」って言いながらそこにしゃがんだの。そうしたらテツも、しゃがんでいる私に飛び込むようにして飛んできて、おばあさんが握っていたリードから離れちゃって・・・」
妻は言った。 「それはテツだろうね」 ぼくは言った。 「うん。それで、テツはもう本当に喜んで、甘えて手は噛むし、膝の間でクルクル回るようにしながら、いつもの通りにあの声で鳴くんだよ。まるっきりテツだから(変だなあ)って思ったの。だって黒くなっちゃったんだから・・・」 妻は言った。 「どういうことなんだろう?」 ぼくは言った。 comments (10) : trackback (x) : PAGE UP↑↑↑
「そうそう。それで「テツ」って呼ぶとハッとした顔になって、もうヒイヒイ鳴くんだよ。
(待っていましたよ)っていうような顔で、嬉しいのと、辛かったのが混じり合ったような声って言うのかな? あれを聞くと(悪かったな)って本当に思うよね。 それで今日の話に戻るけど、おばあさんに連れられた黒柴が通りがかって、その犬が(あれっ?)っていうふうに私の顔を見上げたの。はじめはね、家の門のあたりの匂いを嗅ぎながら、歩いてきたんだよ。ところがふと私の匂いに気が付いたみたいにハッとして上を向いて、それから私の顔を見たの」 妻は言った。 「で?」 ぼくは言った。心臓が高鳴るのがわかった。 comments (3) : trackback (x) : PAGE UP↑↑↑
「いや、あれはテツなんだよ。テツも私を見つけて、嬉しそうに寄ってきて、ヒイヒイ、鳴いてね。ほら、私たちが旅行から帰ってきて預かって貰っている人の家に迎えに行くときのこと、覚えている?」
妻は言った。 「覚えているよ。庭に入って行くとはじめはキョトンとしてぼくを見るんだよ。それで(誰でしたっけ?)っていう顔をして、首を傾けて、(変だなあ)って言いたげに、こっちを見るんだよ」 ぼくは言った。 |
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ユキミ→7/25
一円大王→7/23
秘剣→7/22
一円大王→7/22
さと→7/22
さと→7/20
なべかず→7/20