日本で唯一の屋根に椿の木を植えた店舗から作家、社長、杜氏である谷口英久が綴る抱腹絶倒の「Blog」
言葉では表しきれない。
01/Jun.2017 [Thu] 7:17
言葉を綴っても、表現できないことがある。
(それは自分のつたなさだから仕方がないとしても)
たとえば、焼酎を造って、それをおぎなっている、
ことはあるなあ、と思う。
ありがとう、という気持ちを言葉にしてここに書くと
その瞬間に陳腐で恥ずかしいものに変わってしまう。
でも造った焼酎を飲んでもらったら、
もっと奥深い心のひだの大きな感情が
伝わるんじゃないか、と思うことがよくある。
このあいだ、お酒は飲めない、という女性と
友人と三人で、近所の居酒屋に出かけた。
今、一番美味しい自分の造った焼酎を持参して
水は蔵の裏から湧いてきたものを持って行った。
水を温めてもらって、お湯割りを作って
その女性にも飲んでもらった。
「おいしーい」
とその女性は言った。
「焼酎ってこんなに美味しいんですね。私は今まで
焼酎を莫迦にしていたかもしれない」
とその女性は言った。
飲めないから、今日は飲まなくてもいい、と店に来るまで言っていたのに
するするとそのお湯で割った焼酎を飲んでいる。
良かったなあ、とそのときに思った。
本当に造った甲斐があったなあ、と思った。
もうそれだけで、充分じゃないか、と思った。
どこの焼酎が美味しいとか、これはあの焼酎と味わいが似ているとか
そんなことは、自分にとってはどうでもいいことだ。
麹アレルギーになって、苦しんで造るようになったけれど
それをアピールしたいわけでもない。
でも、飲んだ人に必ず伝わる想いがある。
想いを言葉に変換すると陳腐なものになってしまう。
でも焼酎の一滴の中にそれが詰まっている。
その言葉にならない味が人を動かすのではないか、と思っている。
その味は海を越えて外国の人が飲んでも、変わらないものだと思う。
今まで多くの人にお世話になってここまでやってきた。
今も様々な人に支えられて、生きている。
それが結晶となって、焼酎の味になっている。
ほらね、書くともう陳腐なものになってしまう。
だから変換はできないけれど、
もし出来るのなら、眼をつむって、焼酎を一口飲んでみて欲しい。
本当に複雑な味わいの上に成り立っている「今」がある。
父や母や、祖父や祖母や、近所の人たちや
先生や、妻や、友人にも御礼が言いたい。
本当にありがとう、と言いたい。
新緑が本当にきれいで、それを眺められることにも
御礼を言いたい。
眼が見えることにも御礼を言いたい。
眼を診てくれる先生にも御礼が言いたい。
本当にすべてのものに支えられている、と思う。
ありがとうございます。
言葉でも、もっと伝わるように努力します。
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近未来の愉しみ。
21/May.2017 [Sun] 17:42
焼酎の仕込みが終わってから、ぬか漬けを作りはじめた。
無農薬の玄米を買っている農家から米ぬかを貰ったので
ぬか漬けを作ってみようと思ったのが始まりだった。
といっても、特に何かが必要というわけでもない。
米ぬかを水で溶いて、よくかき回す。
にがりが手元にあったので、それを入れてみた。
あとは、煮干の頭とはらわたも入れた。
春になって暖かくなってくると、醗酵して
ぷつぷつと気泡がたつようになってきた。
カブが美味しい季節で、カブを適当な大きさに切って漬けた。
美味しいんですね、これが。
玄米のごはんと、このカブの漬物があれば、もうおかずも
いらないくらい美味しい。
ところが大根が出てくるようになると
なんだか酸味が出てきた。
これはどうしたら酸味が消えるのか、ネットで調べてみると
卵の殻か、もしくは唐辛子を入れると良いと書いてあった。
卵は滅多に食べないので、唐辛子を丸ごと、何本か入れてみた。
卵もずいぶん久しぶりに買って、お昼のスープに卵を入れた。
殻が欲しいために、卵を食べるような形だけれど
まあ、たまには食べるのも良いよね、と妻と話した。
すると、本当に漬物の酸味が消えて、また美味しくなった。
お昼は玄米のご飯に、野菜の入ったスープ。
それにこの漬物。
本当に、この漬物のおかげでご飯が愉しみになった。
醗酵してゆくものを工夫して、味が良くなってゆく、
その経過を見るのが自分では好きらしい。
さらに美味しいものを食べられるなら、こんなに
楽しいことはない。
妻も喜ぶし、たまに多めに漬けて、従業員にもおすそ分けをする。
こんなことに大きな喜びを感じるようになった。
かぶの季節ももうそろそろ終わりで
これからはきゅうりも出てくるね、暑くなってきたら
漬けてみようね、と妻と話した。
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なんと言っていいのか、わからない。
16/May.2017 [Tue] 6:42
ちょっと銀行まで出かけてこようと
妻と二人で車に乗りこむと
自転車を押して坂を上がってくる若い女性が見えた。
こんな辺鄙なところに来る観光客は
うちを(ツバキ城という屋根に椿の木を植えた
変わった建物があるので、それを)目指してくる人が多い。
「お買い物ですか? 店を開けましょうか?」
と車のドアを開けて、その人に話しかけた。
「いえ、ここから写真を撮るだけですから
けっこうです」
とその女性は素っ気ない口調で言った。
(そうじゃなくてさ、
「写真を撮っても良いですか?」
って訊くのがふつうだよなあ・・・)
と思いながら、車を出した。
近頃は店に入ってくるなり、何の断りもなく
写真を撮る人が多いので
建物の中は撮影禁止にした。
「そういうことにいちいち腹を立てていると疲れるよ」
と妻に言われた。
ぼくの考えるふつうは、もうとっくに通用しなくなっているらしい。
まるで外国人である。
だから店には出ないで、焼酎を造る仕事に専念していればいいのだけれど
まあ、そういうわけにもいかない。
東京に出ると、人にぶつかって何にも言わない人だらけだ。
禁煙の場所でタバコを吸いながら歩いている人がいると
いちいち注意をしていたけれど
やはり妻から
「いきなり刺されることもあるから、もうやめて」
と言われた。
たしかになあ、と思って、それもやめた。
注意をすると怒鳴られることが多くなったからだ。
でも歩きタバコの後ろを歩くと、延々とその煙を吸うことに
なるので、走って追い越すことにしている。
ぼくがいきなり走り出すと、タバコを吸っている人が
驚いたように振り向くことがよくある。
やはり悪いとは思っているのだろう。
家でも吸わせてもらえないのかもしれない。
そう思うと、かわいそうな気持にもなる。
変わった建物を見れば写真を撮りたくなるのも
気持はわかる。
だから、一言が大事なんだけどなあ。
若い人だけでなく、中高年でもその一言が言えない人が
たくさんいる。
まったくタイヘンなものを建ててしまったものだなあ、
と今ごろになって想っている。
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手を合わせて眼をつむると。
01/May.2017 [Mon] 19:45
母の命日で、夕方、お墓参りに行った。
朝は雨が降ったので、夕方、雨が上がってから
出かけた。
来年はぼくも亡くなった母と同じ歳になる。
母はどんな気持ちだったんだろうか? と
亡くなってから考えたことがあった。
医者に寿命のことを教えられたけれど
それは母には言えなかった。
それでも、自分はもう長くない、ということが
わかっているようで、言葉の端々にそんな気持が表れていた。
何年前だったか、駅前の食堂で一人で食事をしていたときに
後ろ姿が母にそっくりの人を見かけた。
背中の曲がり具合も、生きていたら、このくらいだろうなあ、
という様子でその人を見ながら、いきなり涙が溢れてきた。
涙がとまらなくなって、困ってしまった。
食事も喉を通らないし、人に見られるのも恥ずかしい。
でも、そんなことはおかまいなしに、涙はいくらでも流れてくる。
その女性が席を立つときに顔を見たら
顔はまったく似ていなくて、気が抜けたようにホッとした。
(バカだよな、まったく・・・)と自分のことを笑った。
今日はお墓参りに出かけて、そのことを思い出した。
四月の終わりだというのに、冷えて、風も吹いてきた。
卒塔婆が風に吹かれて独特の乾いた音をたてていた。
眼をつむって手を合わせていると
母の笑顔が胸の中に一杯になった。
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なかなか経験できるもんじゃない。
27/Apr.2017 [Thu] 17:30
何年かに一度、酒税の調査がある。
原料になる麦を年間で何トンか仕入れる。
すると、そこから換算して、何リットルの焼酎が出来るか、
ということが判る。
それを蒸留して、今、タンクに何リットルあるのか?
それを割り水して、瓶に詰めて、瓶が何本あるのか?
今日は何本売れたので、残りは何本か?
これをすべて細かく記帳して、数が正確に合わなければならない。
そんなことが出来るのかって?
やっているのが酒造会社なんですよ。
うちもきちんと記帳している。
しかし、人間のやることだから、ときどきは記帳ミスも出てくる。
すると数が合わなくなる。
おかしいなあ? ということで、どこにミスがあるのか、
調べるのだけれど、そう簡単には見つからない。
調査は国税局の酒税担当の調査官が四人来た。
四日間、朝から夕方まで、蔵に来て調べるのだけれど
やはり、緊張する。
そのストレスと言ったら尋常ではない。
昨日はこんなことがあった。
毎年、「一都三県蔵元の会」という会が秋に行われていて
これには必ず出品をする。
蔵から出た焼酎は課税義務が発生するので
この焼酎にも税金を払わなければいけない。
「あのさ、あれ、一都三県の会にも出してるの?」
とまず軽い口調で聞かれた。
「出さないと、組合にしつこく催促されますからね。
出していますよ」
そう答えた。
それを翌日になって、
「その一都三県の伝票はどこにあるのかな?」
と訊かれる。
もうね、ゾッとしますね。
きちんと記帳して、伝票を切ったつもりでも
贈呈したものは、漏れている可能性もあるからだ。
必死になって探すと、ちゃんと出てきた。
すると今度は、それをどういう形で送ったのかな? と訊かれる。
ヤマト運輸で送ったのなら、その伝票もあるよね?
というわけだ。
最初の二日間は、それに税務署の指導員も加わって
総勢六人での調査となった。
そんなわけで、今日、その調査が終わった。
タンクの容量も瓶の数も、ぴったり合っていて問題はなかったけれど
造った麹の重さを測れないか? と訊かれた。
うちでは一度に300キロの麹を造る。
もちろん一人だ。
それをタンクに入れるのも手作業となる。
それをどうやって測るのか?
逆にお尋ねしますけど、どうしたらいいでしょうね?
とぼくは訊いた。
なんだか禅問答のようにも思った。
仕方がないので、20キロまで計ることの出来る秤を
用意して、そこに一々載せて、計ってみることにしたら
どうかなあ? と提案してみた。
現場と机上の差、と言えばそれだけだけれど
やるほうは大変である。
酒造という仕事は本当に特殊だ。
これを誰かに話しても、誰にも理解はされないだろう。
ふーん、大変ですね、というのがたいていの人の答えだ。
まったくなあ、としか言いようがない。
この疲れもしばらくは取れないだろう。
本当にまったくなあ、だよなあ、と思いながら
今日も一人で焼酎を瓶に詰めた。
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ツバメがやってきた嬉しさ。
19/Apr.2017 [Wed] 17:21
風に乗って、鳥の声が聞こえてくる。
今はウグイスがさかんに鳴いている。
それからほととぎす。
メジロも澄んだ高い声で囀っている。
それに混じって、ツバメの声が聞こえたような気がした。
まだ肌寒いのに、もう渡って来たのかな?
と思って空を見上げた。
桜の花が咲く梢をかすめるように素早く飛んでゆくツバメの姿が見えた。
そうか、もう渡ってきたんだ。
今年は暖かくなるのがゆっくりで、桜も長く咲いた。
だから、渡ってくるのは、まだ先だろうと思っていた。
玄関の前には、蚊がたくさん湧いてきて
扉が開くのを待っているように見える。
もう蚊も出てきたんだ、と思ったのが一週間前のことだった。
虫が出てくれば、それを食べるツバメも渡ってくる。
自然の営みは、ぼくが知ろうと知るまいと、確実に進んでゆく。
ツバメはどうやってその時期を知るのか?
どうやって仲間を募って、群れになって飛び立つのか?
どうしてこの大島にやってくるのか?
ぼくは何も知らない。
ただ耳を澄ますと、鳥の声が聞こえてきて
ああ、ツバメがやってきたんだなあ、と
今日はそのことが嬉しかった。
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愉しみは自分で探そう。
17/Apr.2017 [Mon] 17:26
旅行会社の人から連絡があって
大人の社会見学、というツアーを企画しているけれど
そちらに伺ってお話を伺うというのは
どうでしょうか? と言われた。
お話しって、どんなことを喋ればいいのか、
ぼくはそれを聞いただけで、うろたえてしまった。
こんな小さな焼酎蔵で、一人でぼちぼち造っているだけの
人間の話を聞きたい人なんているのだろうか?
かつては、こういう話がくると律儀に引き受けていた。
山登りみたいな格好をしたお元気そうな初老の人たちが
バスからわらわら降りてきて、
じわじわと取り囲まれる。
では、タニグチさん、お願いします、と言われて
自分がしていることを話すのだ。
どうして一人で焼酎を造っているのか? 
というようなことを話すと
うんうん、とか、ふむふむ、とか言いながら肯く人もいる。
その奥からジーッとまばたきもせずに薄く笑っている人と
眼が合ってしまって、言葉が出なくなることがあった。
話したあとは、もう寝込みたいくらい、疲れてしまう。
仕事どころではなくなってしまうのである。
それで、近頃はもう滅多なことでは、こういうツアーのお話は
引き受けないことにしている。
なにしろ店も小さいし、十人も人が入ったら身動きが
取れないくらいだ。
「そうですか。残念です。もっと多くの人に
ツバキ城の良さを知って欲しいんですけどね」
とそのツアーを企画している人は言っていた。
観光名所になるのに、と思っているらしい。
いえいえ、もうツバキ城の屋根の草もボウボウで
人に見られるのも恥ずかしいくらいですから。
外壁のすき間の土も埋めなきゃいけないのは
わかっているけれど、毎日、仕事に追われている。
春になって、ウグイスやメジロの囀る声が聞こえてくる。
それを耳にすると本当に嬉しくなる。
疲れたらちょっと日向ぼっこをして、ぼんやりする。
そんなことをツアーのお客様に喋ったら面白いのかな?
と、思うけど、
考え出すと際限なく頭が動いて疲れるので、
とにかく自分の仕事に精を出す日々である。
味わいのある旨い焼酎を造る。
それだけである。
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プチトマトの収穫
15/Feb.2017 [Wed] 17:38
右手の人差し指の先端がお昼のあとで急に痛み出した。
なにかを触ると、ズキンと痛む。
これは何かな?
爪を剥がしかけたのかな? と思った。
でも爪はなんともない。
ちょうど鍼に行くところだったので
阪本さんにそのことも訊いてみた。
「うーん、わからないけど、とりあえず瀉血(しゃけつ)をしてみよう」
と言って、小さな道具を取り出した。
糖尿病の患者さんが血液を測定するときに使う道具で
ペンの先端に針が付いているらしい。
それを指先に当てて、シャープペンの芯を押し出すように
お尻のボタンを押すと、針が出て、指先にプツンと小さな穴が開いた。
プチトマトのように指先から紅いものが盛り上がってくる。
指をしごいて、血をどんどん出すように、と言われて
そうすると、血がいくらでも出る。
阪本さんはそれを待っていて、脱脂綿にアルコールを含ませたもので拭いてくれる。
指をしごけばしごくだけ、血が出るので、少し心配になった。
「輸血をしないと・・・」
とぼくが言うと、
「大丈夫。そのうちピタッと止まるから」
と阪本さんは言った。
そんなことを二十回くらいやっただろうか。
血が止まって、もういくら指をしごいても血は出なくなった。
すると指先の痛みも消えてしまった。
うっ血したものを出せば痛みも消えるのだという。
面白いものだなあ、と思って阪本さんにそう言うと
「本当にねえ」
と言って、嬉しそうに笑った。
お地蔵さんのような、しみじみとした笑顔だった。
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また今度会いに行くからね。
30/Jan.2017 [Mon] 18:16
浜松町の竹芝桟橋から船に乗るまでのあいだ、
すこし時間があった。
そこで待合室の上の陽の当たるベンチに座って、
持ってきたおにぎりを妻と食べた。
日向ぼっこをしたいなあ、と思っていたので嬉しくなった。
おにぎりを食べ始めるとすぐに鳩が寄ってきた。
一羽だけなので、お米を何粒か、鳩のそばに投げると
すぐにそれを喉を鳴らして食べた。
鳩がもう一羽、どこからともなく飛んできて
我々の前に舞い降りた。
ありゃー。
こいつらは、誰かがこうして食べ物をくれるのを
知っているんだ。
するとベンチの脇の植え込みから
スズメが一羽、顔を覗かせた。
顔が汚れていて、体型もまんじゅうを潰したような
形をしている。
もう歳なのかもしれない。
大島ではあまり見かけないタイプのスズメだった。
なんだか可愛らしくて、鳩ではなくてこのスズメに
ご飯をあげたくなった。
指にくっついているご飯粒を指で弾いて、鳩の群れの向こうに
いるスズメめがけて、飛ばしてみた。
スズメはそれに素早く気付いて、鋭く動きながら
ご飯をついばむと、植え込みに隠れた。
「いいぞ、スズメ」
妻と二人でそう言って、スズメが再び出てくるのを待ち構えた。
「きた。それ、今だ」
今度は妻がご飯粒を投げた。
またしても鳩より速く、ご飯をついばんで、植え込みに隠れた。
都会ではこのくらい敏捷でなければ生きていけないのかもしれない。
興奮して、スズメを応援していたら船が出る時間になっていた。
慌てて下に降りると、最終のアナウンスが流れて
船に掛けられたタラップをはずす準備をしていた。
「危なかったね」と妻と船に乗り込んでから呟いた。
「へちゃむくれのスズメ、かわいかったね」
と妻が船が動き出してからまた、そう呟いた。
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ちょっとだけ春。
26/Jan.2017 [Thu] 18:22
冷たい空気を自分でかき回しているのだろう。
蔵の中で動くと冷気を裂くように
身体が冷たかった。
それでも、外はなんとなく春の息吹を感じる。
今までとは違った鳥の鳴き声があちこちから聞こえた。
メジロが、小さな声でチュクチュク、呟くように鳴いている。
春になると、もっと高らかに澄んだ声で鳴くのだけれど
冬の中でも、こんな声で鳴いているんだ。
ウグイスも、春とはまるで違った声で
やはり何かささやくように鳴いている。
あちこちで鳥たちが静かにそっと空気をかき混ぜるように
動いている。
「ちょっとだけ春だね」
と一緒に仕事をしていたカネちゃんに言うと
「そうですか?」
と言った。
何を言っているのか、わからない、というような
きょとんとした顔をしていた。
一日ごとに春を感じるようになるのは、まだ先のことだけれど
それでも、春がすぐそばまで来ている。
嬉しいなあ、本当に嬉しいことだなあ、と思った。
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