日本で唯一の屋根に椿の木を植えた店舗から作家、社長、杜氏である谷口英久が綴る抱腹絶倒の「Blog」
歯がなくても気にしない。
18/Dec.2016 [Sun] 16:46
父の家に味噌汁を持っていきながら
(あっ、今日も忘れちゃった)
と思った。
父の家の玄関の戸の滑りが悪くて
引き戸がうまく閉まらない。
それで引き戸を反対にして使っている。
戸をはずして、油を差せば、滑りが良くなると
思いながら、朝になると忘れてしまう。
なにしろ寝ぼけながら味噌汁を作って、
持ってゆく。
それで今日はとうとうその油を持っていった。
朝の体操を一緒にやって、それから味噌汁をお椀によそって
父が食べているあいだに、玄関の戸をはずした。
戸車に油を差して、何度か滑らせると、
スムースに動くようになった。
「そんなことも出来るのか。お前、器用だなあ」
と父が言った。
「こんなことだって業者がやれば結構なお金を取られるよ」
と言うと父は嬉しそうに口を開けて笑った。
歯が抜けて、そんなことは気にせずに、大きく口を開けて
笑っている。
(今日も元気でね)
と心の中で思った。
comments (2) : trackback (x) : PAGE UP↑↑↑
カラスのかあくん、タイルを持ち去る。
17/Dec.2015 [Thu] 19:17
焼酎のタンクに使うカバーは特殊な素材で出来ている。
見た目は透明のビニールと変わりないけれど
強いアルコールにも溶けない素材なのだそうだ。
そのカバーの縁には点々と細長いタイルが入っている。
重しの役目をしているらしい。
このタイルが先日、ぽろっと、取れてしまった。
長いこと使っているので、素材が破れて
タイルがそこから出てきてしまったのである。
それを工場の軒先に出してあるタンクの上に置いておいた。
特に必要でもないけれど、捨てるのも、どうか、
と思って、何の気なしに、そこに置いた。
すると、翌日には、そのタイルが無くなっていた。
地面にも落ちていないので
ああ、カラスだな、と思った。
あいつは、ぼくがやることをよく見ている。
タンクのカバーの上に、紫外線よけの青いカバーを
かぶせると、早速来て、それをつついたことがあった。
青いものが好きで、確かめに来たのである。
タイルも白くてピカピカしているので
気に入ったのだろう。
今ごろ、巣の中に置かれていると思うとなんだか可笑しい。
人間がダイヤモンドを綺麗に思うように
カラスはあのタイルを大切に巣の中まで運んだのだ。
ぼくにはどちらも大して興味がないので
それを欲する気持を想像すると、不思議な気持になる。
針金素材で出来た青いハンガーを巣に使うのは、東京の街路樹で
よく見かける。
冬に枝ばかりになった銀杏の樹を見上げると、そこに
ハンガーで出来たカラスの巣があって、現代芸術の作品に見える。
でもそれは嗜好ではなくて必要だから持っていくのだろう。
今回のタイルうはカラスの嗜好で、嘴に咥えて運んでいったのだ。
あのタイルを巣に帰るたびに眺めて、カラスが満足しているのかと思うと
世の中は不思議なものだ、と思う。
「良い」という気持ちは、どこから湧くのか?
こういうことを考えると、嗜好というのは
迷宮のような、底なしのものだなあ、
といつも思う。
でも、ダイヤモンドをタンクの上に置いておいて
それをカラスに持っていかれたら、やっぱり
慌てるだろうなあ。
どうしてかって? 高いからでしょうね。
あはは。
comments (2) : trackback (x) : PAGE UP↑↑↑
軒のある家に住む。(日常の日記です)
21/Apr.2011 [Thu] 7:49
朝起きて、顔を洗っていると
洗面所の壁を叩く、小さな音がした。
壁を一枚隔てて、むこうにはスズメがいるらしい。
毎年、この季節になると
子供が産まれて、その声がする。
軒下から家の中に潜り込んで
スズメが巣を作る良い場所があるのだろう。

東京には軒のある家が少なくなって
スズメも暮らしにくくなった、という話を
このあいだ聞いたばかりだ。
それなら大島に来たら良いのに、
と思うけれど、そう簡単なことではないらしい。

東京で路上を歩いていると頭のはるか上のあたりから
雛の声が聞こえることがあった。
見上げると電柱があるだけだった。
電柱の上に載っている、あの大きな丸いギザギザした
器械の中にスズメの親が入ってゆくのが見える。
あの中のどこかに巣を作っているんだな、
としばらく見上げた。
洗面所の壁を叩いたのは雛の小さなくちばしだろう。
乾いた(コツコツ)という音だった。
振り向きざまにくちばしが当たったような音にも聞こえた。
雛たちももうしばらくすると巣立ってゆく。
そうしたら、あのにぎやかな声も聞こえなくなる。
comments (2) : trackback (x) : PAGE UP↑↑↑
なんて気持ちが良いんだろう。(ふだんの連載とは別です)
21/Aug.2010 [Sat] 7:27
夕方、仕事を終えてから、裏の山の中を犬を連れて散歩に出ました。

ふだんは走っているんです。
ゆーっくり。
人が見たら歩いているような速度。


でも、今日はあまりにも暑いので、走るのはやめて、ゆっくりと歩くことにしました。

良いんですね、この時間が。

夕暮れで日が傾いてきて、木々のあいだを薄い光が射しこんでいる。
それが葉にあたって輝いて見える。
視力があがるような、温かみのある光。


大きく息を吸い込む。
なんて気持ちが良いんだろう。

さて、犬が戻ってきたので、御褒美に葉っぱをあげることにしました。
バカ犬テツはこの葉っぱが大好きで、これを喜んで食べています。
何が美味しいのかは、ぼくにはわからない。

葉は細長くてギザギザしています。

指で触ってみると葉の表面もザラザラ。

きっとこれを食べると葉っぱのザラザラが腸壁を掃除して、消化が良くなるのかもしれません。

でも近所の柴犬ジローにあげたら見向きもしない。
テツだけの好物らしいこともわかりました。
テツはこの葉っぱを自分でも採って食べるけど、なにしろ蚊が多いので、待っていられない。


そこで、なるべく固いような葉を選んで、その穂先を取って、トラックの荷台にまず置きます。

そうするとバカ犬は早くこれが食べたいので、急いでトラックに飛び乗る。
食べているあいだに、帰る、というわけなんですね。

テツよ、うまいか?
元気で長生きしてくれよ。
明日も葉っぱを取ってあげるからね。
comments (5) : trackback (x) : PAGE UP↑↑↑
朝が明ける。時鳥が鳴く。夜はいなくなった。 (いつもの連載はお休みしました)
24/May.2008 [Sat] 7:12
春から初夏の気配になってきて
朝の明けるのが早くなった。
本当は夜が明けるという言い方が正しいけれど
こうして寝ていると、朝の神々しい明るさに
夜という言葉が出てこない印象を受ける。
何時に日が昇るのかは知らないけれど
朝の五時には目が覚めてしまう。
障子が破れたままなので
眩しくて仕方がない。
しかし、張り替えもしない。
夜寝るときには、外は暗いので
「まあ、いいか」
ということになる。
妻も同じ気持ちらしく
「まあ良いよ」
と言う。
朝になるとホトトギスが鳴き始めて
薄目をあけると破れた障子紙が
隙間風に揺れているのが見える。

何か聴くものはないか? 
と思ってCDの棚を探していると
「ジプシーキングス」の二枚組アルバムが見つかった。
ずいぶん昔によく聴いていたアルバムである。
かけてみると、これが良い。
血が騒ぐ感じだ。
踊り出したくなる。
嬉しくなって、つい音が大きくなる。
「うるさい」
とまだ寝ている妻に怒られたけれど、
その音も聞こえないくらいだ。
朝の五時だから、近所にも迷惑だろう。
しかし、近所には人がほとんど住んでいないので
妻と犬に迷惑、と言ったほうが正確かもしれない。
踊っているぼくを見て
「落ち着け」
と妻は言った。
comments (5) : trackback (x) : PAGE UP↑↑↑
父とぼく。ときどき曇り。6
26/Jul.2007 [Thu] 9:04
(だから、曜日を間違えるなんて、どうってことないんだよ)
そう言ってあげれば父がよろこぶことは判っていた。
我々は何も言わず、お互いにちょっと苦笑いのような微笑みを浮かべた。
父はきびすを返すと自分の店にゆっくりとした歩調で帰っていった。
その背中をしばらく見つめてから、ぼくも家に戻った。

終わり。
父とぼく。ときどき曇り。5
24/Jul.2007 [Tue] 10:25
ぼくはそれ以上、何も言わなかった。
「そうなんだ・・・」
と言っただけだった。
父とお互いの悩みを共有できたらどんなに良いだろうか
と、ときどき考える。
一緒に店をやっていた時期はぶつかり合うことのほうが多かった。
言い合いになるのが嫌で、当たり障りのない話しを、
ときどきするのが、いつものことである。
(いや、大丈夫だよ。俺なんか、朝起きて
自分がどこにいるのか判らないんだから)
ぼくはそう言いたかった。
(旅をしていると、毎日起きる場所が違うんだよ。
そうすると、家に帰ってきても、一晩寝て起きると
自分がどこにいるのか、判らなくて慌てるんだよ)
父はきっと嬉しそうな顔をするだろう。
(つづく)
comments (4) : trackback (x) : PAGE UP↑↑↑
父とぼく。ときどき曇り。4
22/Jul.2007 [Sun] 15:07
「そうしたら今日は火曜日だって判ってサ。
だから自分でもびっくりしたァでえョ」
「ハッハッ」
ぼくは笑った。
父は笑わずに溜息をついた。
それから
「・・・・歳だなぁ、俺も」
と小さな声で言った。
父は弱音をすぐ吐く。
若い頃からそうだった。
それはぼくも同じだ。
弱いところをさらけ出して、生きている。
自分の弱いところを知ることは、悪いことではない。
ただ、身内からは、
「なるべくそういうことは言わないように」
と言われてしまう。
(つづく)
comments (0) : trackback (x) : PAGE UP↑↑↑
父とぼく。ときどき曇り。3
20/Jul.2007 [Fri] 6:41
「今日はさ、なんだか日曜日のように思っちゃってヨ」
父はちょっと恥ずかしそうな顔をするとそう言った。
「どういうこと?」
ぼくは聞いた。
「いや、わかンないんだけど、とにかく今日は日曜日だと
思いこんでいたァな。それで、一日ゆっくり寝て
夕方になって店に来てみたら、店が開いてンからサ、驚いてヨ。
みんなに「どうしたんだ?」 って聞いてみたァでェよ」
父は言った。
歩く姿を遠目から見ると、やはり歳を取った老人だなあ、と思う。
もう八十を過ぎて、それでもまだ現役で店を切り盛りしている。
従業員も助けてはくれるけれど、毎朝自分で店を開ける。
夜も九時になってようやく、閉店の作業をする。
ぼくは父とは別の場所で焼酎を造り、店を切り盛りしている。
住む家も別々なのでお互いに顔を合わせることは
多くはない。
母が亡くなって20年が経つけれど、父は今も
一人で暮らしていた。
(つづく)


comments (4) : trackback (x) : PAGE UP↑↑↑
父とぼく。ときどき曇り。2
19/Jul.2007 [Thu] 19:16
小学校五年生のときに叔母さんが、
「本を買って上げるから本屋さんに一緒に行こう」
と言ってくれたことがあった。
ぼくは喜んでそのあとを付いていき
迷わずマンガを選んだ。
すると叔母は明らかに不満そうな顔をした。
「そんなのじゃなくて、もっとほら、良い本があるでしょう?」
と不機嫌そうな顔をして言った。
それで夏目漱石の「坊ちゃん」を買って貰うことになった。
親からは
「こういう本を読みなさい」
と言われたことはなかったので、叔母さんの言うことは
腑に落ちなかった。
しかし父と子でマンガをずっと共有しあっているというのも
考えると面白いことだなあ、と思った。
(つづく)


comments (0) : trackback (x) : PAGE UP↑↑↑
  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31      
<<<<< 2017,May >>>>>