日本で唯一の屋根に椿の木を植えた店舗から作家、社長、杜氏である谷口英久が綴る抱腹絶倒の「Blog」
そこにいるんだね
31/Mar.2011 [Thu] 7:56
テツを連れて、走りに行く裏山で
いつも会うおじさんがいる。
我々が行くよりも先に来ていることもあるし
あとから来ることもある。
同じような軽のトラックで
おじさんの車には荷台に箒が乗せてある。
近頃はたいていおじさんのほうが早く来ている。
おじさんはゆっくり時間を掛けて山道を歩く。
ぼくとテツはそこを走る。
ところがこの何年か、テツはぼくと一緒には
走らなくなってしまった。
たまに気が向くと一緒に走ることもあるけれど
そういうことは滅多になかった。
車を停めるところを起点として
そこから500メートルくらい上ったところまで
一緒に走ると、電池が切れたようにパタンと止まってしまう。
「おいで」
と呼ぶと一緒にくることもあったけれど
お医者さんから
「心臓が良くないから、無理に走らせないように」
と言われていたこともあって
好きなようにさせていた。
山道には大きな樹があって
その木陰で木漏れ日を浴びて待っていることもあった。
車のところまで戻って、トラックの荷台の下で
首だけを出して待っていることもあった。
この半年は、ぼくが帰ってくるのを待てなくて
一人で工場まで戻ってしまうこともあった。
そういうときに怒ると、今度は帰ってこなくなる可能性もあるので
(心配したんだよ)
とだけテツに言った。
テツも悪いと思うのか、ぼくが帰ると
尻尾を振って申し訳なさそうな顔をした。
昨日、一人で山に走りに行って
おじさんとすれ違った。
「今日はテツは?」
とおじさんに訊かれた。
どう言おうか、少し迷って、
「うん」
とだけ言った。
おじさんも以前は犬を飼っていた。
それが死んでしまってからはテツを可愛がってくれた。
テツが車を間違えて、おじさんの車の下でぼくを待っていると
「あんまり可愛いから連れて帰りたくなるよ」
といつも言っていた。
「今日は工場で待っている」
とぼくは言った。
「そうなの?」
とおじさんは言って、(変だな)、という顔をした。
おじさんに「テツが死んだ」ことをまだ言えない。
言えばそこで泣き崩れてしまうだろう。

車に乗るとテツの匂いがした。
ここに来るまでは車の中で匂いは感じなかったのに、だ。
(テツ、そこにいるんだね)
と話しかけた。
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補聴器いる? 
20/Jul.2010 [Tue] 7:10
朝起きると、バカ犬(別名、看板犬テツ)が家に上がって
囲炉裏の脇の座布団の上で寝ていた。

クッションに顔を突っ込んで顔を隠すようにしているのは朝日がまぶしいからなのか?

 
しかし家に上がって寝るのは約束が違うので、叱らなければいけない。


たいていは、頭を引っぱたかれて、しっぽを下げて玄関に戻る。


それで、夜中に人間が眠ったあとで、一人になってから家の中に上がってきては眠るらしいんですね。

お気に入りは囲炉裏のわきの座布団で、ここで寝ていることが多いんです。

バカ犬が若いころはぼくが起きてくる音を聞いて、急いで自分の寝床に戻って「寝たふり」をしていたんですが、近頃は歳を取って耳が遠いからか、ぼくの起きてくる音も聞こえないらしい。


頭をはたくと、(へ?)というボケボケの顔でぼくを見ます。


さらに(ここどこ?)という顔で部屋を見渡しています。

困ったもんだなあ、おい。
長生きしてくれよ、おじいちゃん。

補聴器買ってやろうか?
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テツと赤瀬川さん。 3
09/Aug.2007 [Thu] 18:43
その散歩があってから、急遽、京都に二人で出かける用事が出来た。
親しくしている家のお嬢さんがフィレンツェに住むイタリア人の男性と結婚することになったという。
その披露宴に招かれることになった。
いつもなら、阪本さんの家にテツを預けるのだけれど
阪本さんもその日はみんなで東京に出かける、という。
それなら赤瀬川さんの家に、試しにお泊まりに行ってみたら?
と飼い犬であるテツに、ぼくは言った。
(京都には一緒に行けない?)
と言いたげにテツは眉にしわを寄せて困ったような顔になった。
しかしホテルに一泊しなければいけないし
友人の家にも、柴犬のタマちゃんがいるのである。
タマちゃんはどう猛で、飼い主にも噛みつくほどだという。
テツは子供の頃に、近所のゴールデンリトリバーに
追われて噛まれてから
よその犬と遊べなくなってしまった。
そんなわけで、テツを赤瀬川さんの家まで連れていき
二日間、お泊まりさせることになったのである。
(つづく)
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テツと赤瀬川さん。 2
03/Aug.2007 [Fri] 7:32
その日は、奥さんのN子さんと午後の三時に駅で待ち合わせをした。
赤瀬川さんのお宅から、ぼくたちが借りているアパートまでは
電車で一時間くらい掛かる。
暮れが迫っているのに、N子さんはわざわざテツに会いに
遠くまで出かけてきてくれたのだった。
駅まで行くとN子さんはすでに待っていて
テツは喜んでそこまで駆けて行った。
会ったのは7年前に一度、
赤瀬川さんのお宅に連れていっただけだから、
「それでも覚えていてくれたんだねえ」
とN子さんは喜んでくれた。
それから駅の裏を通って、山深い公園まで一緒に散歩をした。
寒い日で手がかじかむほどなのに
N子さんは公園の水のそばまで来ると
「テツ、喉が乾いているんでしょう?」
と言った。
水道の蛇口をひねって水を手に掬うと
それをテツに飲ませてくれた。
手がかじかむほどだから、
その冷たさは手がしびれるほどだったのではないか、と思った。
(つづく)
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テツと赤瀬川さん。 1
01/Aug.2007 [Wed] 18:46
昨年の暮れのことである。
先生である赤瀬川原平さんと
「たまには一緒に食事をしよう」
ということになった。
会うのは夜だったけれど
奥さんのN子さんから電話があって、
「テツが東京に来ているのなら一緒に散歩がしたい」
と言われた。
赤瀬川さんのお宅では、ニナちゃんという犬をずっと飼っておられた。
そのニナちゃんは、三年前に亡くなってしまった。
もう犬は飼わないことに決めたらしいけれど
やはり犬が好きなのだろう。
特にN子さんは、そういう気持ちが強いのかもしれない。
ぼくたちも、東京にいるときは、大島よりはゆっくりできるし
それなら早めにお会いしましょう、ということになった。
(つづく)
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