日本で唯一の屋根に椿の木を植えた店舗から作家、社長、杜氏である谷口英久が綴る抱腹絶倒の「Blog」
峠の我が家に辿り着く。
12/Sep.2020 [Sat] 13:17
「ずいぶん良くなったねえ」
と妻に言われた。
妻はしみじみとした柔らかい表情になった。
大切に育てている植物が元気になった時に見せる
嬉しそうな誇らしいような表情に似ていた。
めまいと吐き気が一番酷かった頃は
生気が無くなって、
本当に死んでしまうかと思ったほどだという。
鍼を打ってくれる阪本さんも
「あの頃は目に力が無くなっていた」
と言われた。
確かに危なかったなあ、と自分でも思う。
あんなに具合が悪くなったのは
今までの人生の中でも無かったことのように思った。
お腹が痛くなって手術をしたこともあるけれど
それでも医者に行けば理由がわかるので
不安になることはなかった。
けれども今回はどこに行ってもその原因がわからず
それが一番辛かった。
食べられないことでどんどん痩せてゆくのも
本当に困った。
足に力が入らないし、体が枯れ木のように細くなってゆくのである。
体重は今でも痩せた時のままだけれど
近頃は筋肉がついてきたように思う。
これではいけないと思って毎日歩きに出かけたことが
良かったのかもしれない。
もう峠は越したのだろう。
いやはや、人生何が起きるか、わからない。
具合が悪くなっても原因がわからないことだってあるのである。
そんな時にどうすればいいか?
と思っても、泥沼にはまったように身動きが取れない
状態になっていることもある。
それに気がついただけでも儲けものだった。
吐き気とめまいもまだ続いているけれど
なんとか凌げるようになってきた。
健康は本当に大事だなあ、と歳を取って
ようやく実感しているというわけである。
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洞察力を養う。
10/Sep.2020 [Thu] 15:01
歯医者さんに出掛けた。
左上の歯が疼いて、浮いたような感覚を覚えるからだった。
「家の方はどうです? 修理できましたか?」
と先生は言った。
「いえ。大工さんは手が足りないし
とりあえずの応急措置だけでまた台風が迫っています」
そう言うと先生は
「そうですね。まだブルーシートを張ったままの家がたくさん
あるもんね」
と言った。
「タニグチさんは大きなストレスを抱えて、
歯を食いしばっているから
それで歯が痛んでいるんだ。
その結果が今、この浮いた歯に出てきているんだ」
と先生は助手を務める女医さんに言った。
確かにその通りである。
台風の修理に屋根に登っているうちに
肩が凝り、胃が傷んだのだろう。
自分が思っているよりずっと、大きなストレスを
背負っているのかもしれない。
何気ない会話から先生は原因を引き出しているわけで
(すごいなあ)
と感心してしまった。
先生はもう白髪で、けれども治療の時の集中力はすごいものがある。
こういうお医者さんはもう少なくなってしまった。
会話の中から、その人が病んでいる原因と背景を
引き出してくるのである。
診察室でお医者さんの前に座っても
患者の顔も見ない人もいるけれど
この先生は何気ない会話から
歯の痛む原因を探り当てているのである。
良い先生と巡り合えて良かったと
心の底から思っている。
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おーい、元気か?
06/Sep.2020 [Sun] 14:49
毎日、裏山に歩きに出かける。
その時に、藪の中から「にゃあ」という声が聞こえて
きて、何だろう?と思った。
猫じゃないの? と妻が言うけれど
姿が見えない。
こんなところで猫が? と思うけれど
確かに猫の声である。
翌日になるとその声はもっと近づいてきた。
「おーい」
と声をかけると、にゃあという声は激しくなって
沢の下の方からどんどん近づいてくる。
小さな猫だった。
生まれて間もない猫が段ボールの箱に入れられて
捨てられたらしかった。
猫は沢を登って、排水溝の中にいる。
そこは金網が張られているので、こちらからは手が届かない。
「こっちにおいで」
と声を掛けるとちゃんと来た。
金網が途切れる場所までトコトコと歩いて来た。
生まれて間もない本当に小さな猫だった。
何か食べるものを持ってこないとこのままでは死んでしまうだろう。
それで工場に戻って、牛乳に鰹節の粉を混ぜたものを
持っていってみた。
入れ物はどうしようか? と妻と話して
お灸が入っていたプラスチックの容器を使うことにした。
持っていってみると、子猫は最初は警戒していたものの
すぐにこれを飲んだ。
良かった。これでとりあえず死ぬことはないだろう。
翌日は東京の病院に検査に行くことになっていたので
どうしようか、迷ったものの、船に乗る前に
やはり牛乳を持って出かけてみた。
昨日の牛乳が残っていたのでそれを捨てて
新しいものに替えた。
病院の検査は二日掛かって、三日目になって帰ってきた。
帰ってきてすぐ猫のいる裏山に行ってみたけれど
猫の姿は見えなかった。
あたりをずいぶん探してみたけれど、どこにも見つからなかった。
山の中なので、人もあまり歩かない場所である。
どこかで元気に暮らしているといいね、と妻と話した。
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すごいスピードで変化している。
09/Jul.2020 [Thu] 15:03
熊本の洪水に続いて
今日は岐阜でも大雨の警報が出た。
大変なことである。
球磨川の氾濫のニュースをラジオで聞いている時に
「可能な方は屋根に登ることをお勧めします」
とニュースでは言っていた。
しかし現実的に考えて、洪水が起きた時
咄嗟に屋根に登ることのできる人は
どのくらいいるんだろうか?
と思った。
状況として、洪水が起きているのであれば
もう家のまわりは水が溢れてきているだろう。
そんな状況で屋根に登るためには、ハシゴが必要になってくる。
ハシゴを架けるためには、外に出なければいけないわけで
そうなるともう水に流されてしまうこともあるだろう。
二階にベランダがあって、そこからハシゴで
屋根の上に上がれる、というのなら可能かもしれない。
つまり、ふだんから、そういうことを想定して
屋根に登れるようにしておかなければ、
いざという時に助からないかもしれないよ、ということだと思った。
そのくらい、地球の環境が変わってきているんだろう。
ぼくの住む家の周りだけを見ても
風の吹き方も、雨の降り方も子供の頃と違って
常に台風が来ているように荒れ狂うことが多い。
球磨川の近くに住む女性が家族を二人も亡くした直後に
インタビューに応えようとして泣いてしまい
「すみません」
と言っている映像を見て、自分も泣いてしまった。
「すみません」なんて言わなくていいのに、
とその人に言いたかった。
辛いことである。
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また今日も叫び声が聞こえる。
06/Jul.2020 [Mon] 14:06
工場の裏にある林の中から
奇妙な声が聞こえた。
ギグエエーッ、という低いけれど
そこに高音も混じる、そしてものすごく
よく通る声だ。
悪魔の声はこんな声だろうか?
と聞くたびに思ってしまう。
これはキョンの声で、一度鳴き始めると
しばらくその場に居座って鳴いている。
臆病なくせに「うるさい」と大声で言っても逃げない。
自分の声で他の音が聞こえないのかもしれない。
この何年かはキョンが大島全体で増えすぎているので
町が駆除をし始めた。
裏山に歩きに行くと防護ネットに
そのキョンが掛かっていることがある。
小さな華奢な体つきで、かよわい鹿に見える。
網に掛かっているとかわいそうで見るに耐えない。
(助けることは禁じられている)
しかし、その体つきとは裏腹に
声はすごいんですよね。
原稿を書いているときや、焼酎の帳面を付けている時に
こいつの声が聞こえてくると
仕事が出来なくなるくらい、ひどい声だ。
この何日かは毎日のように鳴いていて
ため息が出てしまうほどである。
まあキョンにしてみれば、鳴きたい事情もあるのだろう。
俺の言い分も聞いてくれよ、ということかもしれない。
これが東京なら、隣の部屋がうるさくてかなわない。
上の部屋の人の歩く音がうるさい、ということになるのだろう。
悪魔の声がいいか、隣人の人間の出す騒音がいいか、
まあどこにいても似たような悩みは尽きないというわけである。
とにかくそんなわけでキョンは今日も鳴いている。
百合の花に蕾がついているのは食べないでくれよ、と心の中で思った。
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ツバメは一日に一つずつ卵を産む。
15/Jun.2020 [Mon] 14:01
近所のヨシアキさんは自宅の倉庫に
毎年ツバメが巣を作るのを楽しみにしている。
今年はオスが一羽で来て巣を作ったものの
その後肝心のメスが来ないのでヤキモキしていたのだそうだ。
「家があっても、独身じゃあ寂しいよね」
と二人で話した。
その後オスのツバメには無事にお嫁さんが来て
とうとう巣には卵が四つ産みつけられた。
「卵は毎日一つずつ産みますね」
とヨシアキさんは教えてくれた。
巣の中を観察する専用の鏡を自分で作って見ているらしい。
それで、もう明日には卵が孵るという時になって
ツバメの片割れが巣の下で死んでいるのを
見つけたのだそうだ。
卵も四つとも無くなっていて
たぶん青大将という蛇の仕業だろう、と
いうことだった。
青大将は垂直の壁でも登ってゆくので
ツバメの巣も狙われてしまうのである。
「がっかりしましたよ」
とヨシアキさんは目にうっすら涙を浮かべながら話してくれた。
死んでいたのはたぶんオスのツバメだろうということ。
やってきた青大将を追い払おうとして
逆に噛まれたのだろう。
せっかく巣を直して、相手を見つけて
卵が孵る、というところまで行ったのに
自然界ではこういうこともよく起きる。
本当に残念だったね、とがっかりしているヨシアキさんに
そう声をかけた。
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神様にお願いしたこと。
08/Jun.2020 [Mon] 14:46
北に拉致された横田めぐみさんと
自分がほぼ同い歳だということに気がついたのは
いつ頃だったろうか?(正確には一学年違う)
そう考えると、めぐみさんの存在がグッと身近なものに感じられた。
中学生になって、桜が咲く頃に
風疹が流行ったのも同じだ。
昨日はお父さんの滋さんが亡くなられて
テレビでその報道を見てやっぱり泣いてしまった。
お父さんの姿を最近はテレビで見かけなくなったので
どうされているのか、心配だったけれど
やはり具合が悪かったんだ、と思った。
奥様の早紀江さんと二人で全国を回り
めぐみさんが拉致されたことを訴え続けた
あの真剣な表情を見るたびに
涙が出る。
どうしてうちの娘は拉致されたのか?
なぜうちの娘は帰ってこないのか?
もし問われてもぼくにはその答えが出せない。
自分の生きてきた人生に目を向けるのと同時に
今、めぐみさんはどうされているのか?
考えると深い穴の底を見つめるような気持ちになる。
本当に人生は不公平で
なぜ不公平なのか、
いまだに答えは出ない。
死ぬということはどういうことなのか?
それにも答えは出せない。
命が尽きるまでにその答えが言えたら良いなあ、と思っている。
本気でそう思っている。
そして、すぐにでもめぐみさんが日本に戻れることを心の底から
お祈りします。
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素晴らしい朝が今日も来ている。
04/Jun.2020 [Thu] 14:30
66キロあった体重が
58キロまで減ってしまった。
相変わらず気持ちが悪くて食べられないのが
原因だろう。
痩せると体力も落ちるし、忙しい時の
スタミナがなくなってしまう。
自分にとっては小太りくらいの方が
調子が良いのだけれど、まあ仕方がない。
何か美味しく食べられるものがないか、
考えても、買うものはたいてい添加物が
入っているので気持ちが悪くなってしまう。
車のガソリンを入れるために、さち子さんのところに
寄ったら
「ヒデ坊、大丈夫なの? 」
ともの凄く心配された。
こんなに痩せるのは良くないよ、ということらしい。
しかし胃も綺麗だし、癌の心配もないんだ、
と言っても、いや、どこか悪いところがあるんじゃないのか?
と怪訝そうな困ったような顔をしてそう言われた。
背中の凝りが原因だと言っても、普通はそんなふうには
見ないのだろう。
でも、この痛みは治るために必要なんですね。
この一年間は、この背中の凝りをなんとかしたくて
整形外科のリハビリも受けて、筋トレもしてきた、
その成果が出始めている、というわけだ。
激しい凝りが悪さをしているために
様々な弊害が出てくる。
体重の減少も、今が底だろう。
体重が減ったので内臓脂肪も体脂肪も減った。
血液検査をしてみたら、数値はどれも正常で
この歳にしては素晴らしい部類に入るのだそうだ。
あとはこの気持ちの悪さが治れば良いのである。
美味しく物が食べられることがどんなに素晴らしいことか
健康な人にはわからないだろうなあ。
そのことを考えると
この地球上の素晴らしいことにも触れたくなるけれど
そんなことを言っても
(またそんなこと言っているよ)
と笑われてしまうことだろう。
いや、本当に素晴らしいんですよ。
お日様が届いて温かいことがどれだけ素晴らしいことか
本当にありがたいことである。
素晴らしい朝が今朝も来ている。
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いつもこんなことを呟いてため息をついているんだな。
11/Aug.2018 [Sat] 17:28
台風が近づいてきている。
ゆうべもかなりの量の雨が降って、今日の午後には本格的に島に近づいてくるという。
朝になって倉庫に行ってみると、雨漏りしていることがわかった。
ここはもう古いので屋根のコンクリートに亀裂が入って、そこから
雨が漏れてくるのである。
亀裂の部分を削って、そこにコーキングを流し込み、なんとか修理をしたけれどやはりコーキングが古くなってくると、同じように水が染みてくる、らしい。
やれやれ、今日は焼酎の瓶詰めをしておきたかったけれど
仕方がない、一度工場に出かけて、修理の道具を持って、もう一度ここまで
戻ってくることにしよう。
(いつもこんなことを心の中で呟いてため息をついているんだな)
幸いなことに今は雨も止んでいるので、なんとかこのあいだに
雨漏りの修理をしてしまいたい。
あと二時間くらいは雨も降らない、という予報である。
ハシゴに、コーキング、それにコーキングのヘラ、を車に積んで
もう一度、倉庫に戻ってきた。
途中で、サイクリングをしているカップルを見かけた。
中年の男性はステテコ姿で、女性は自転車を停めて、上着を脱ごうとしているところだった。それを男性がすごい形相で見つめていた。
なんだってあんな形相で相手を見つめているんだろう? と思った。
おいおい、これから台風なんだぞ、そんな呑気なことをしている場合ではないぞ、と思いながら、車で走りぬけた。
あまりに疲れている人や、ちょっとこれは目的地まで辿り着く事が出来そうにもないような人を見かけたときは車を停めて声を掛けることもあるけれど、
今は、そんな余裕はない。
雨が降ってきたら屋根の修理どころではなくなってしまうからだ。
でもヘタに声を掛けると、怪しまれたり、怖がられたり、あとは
せっかくの休みに楽しんでいるんだから、ヘンなこと言わないでください
と怒られたりもする。
そうなのだ。
うちに買い物にきたお客さんが水着を着ていたので
「今日は台風だから、泳ぐのはやめたほうがいいですよ」
と言ったら、その人に
「せっかく休みを取ってきたんですよ」
と逆上されてしまったことがあった。
まあそれぞれ都合があるんだから、台風なんかに構っていられるか、ということなのだろう。
気持ちはわかるけど、でも死んじゃうこともよくあるよ、となんとか伝えたい。
しかしこちらが真剣になればなるほど、相手は引いてゆくので
これはダメだろうな、と思って、諦める。
それで倉庫の屋根に登ると、風がびゅんびゅん吹いて、帽子も、道具も飛ばされそうになった。
ちょっとでも空に近づくと、ひどく暑く感じるのは気のせいだろうか?
なんとかコーキングを塗って、やれやれ、と思って、工場に戻った。
さっきのサイクリングをしていたカップルの姿は見当たらず、
どうか無事に楽しい休暇になってもらえたら、と祈るばかりだった。
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むせび泣く人。
16/Jul.2018 [Mon] 18:21
夕方、日が暮れ掛けている時間に家に帰ってくると
向こうから人が歩いてくるのが見えた。
島では歩く人は少なくて、たいていは近所に出かけるにも車を使う。
だから、島の人ではないのかな? と思った。
狭い道で顔を合わせて何にも言わないのも気持ちが悪いので
「こんばんは」
と声を掛けた。
すると
「あンたは誰?」
と訊かれた。
(うーん誰って言われても、単に挨拶をしただけなんだけど・・)
とも言えず、ちょっと困っていると
「トラさんのお孫さん?」
と訊かれた。
トラさんというのはぼくの父親なので
「いえ、息子です」
と答えた。
「え? お孫さんでしょう?」
とその初老の男性は言った。
短い髪の毛は白髪混じりで、立ち振る舞いからすると
島で暮らしている人ではないように見えた。
父親のことは知っていても、ぼくのことは知らないのだろう。
まあ、孫でも良いか、と思っていると
「お盆でお棚があればお参りしたいけど」
と言われた。
それで家に上がってもらって、お線香を上げてもらうことにした。
しかし、帰ってきたばかりで、家の中は暑くてたまらないだろう。
そう言うと、それでも構わないと言う。
父親の写真を見ると、その人は
「いやあ・・・良い写真だなあ・・・」
と声を詰まらせるようにして言った。
写真は店番をしている晩年の父の姿だった。
店のレジに立って、こちらを見てホンヤリ笑っている。
いつもこうしてレジに立って、店番をしていたので
遺影にもこの写真を使ったのだった。
ロウソクは置いていないので、ぼくがライターで
お線香に火をつけて、その人に手渡した。
すると、男性はなんだか声を詰まらせて
「トラさん、世話になったなあ・・」
と言って大声でこらえきれない、といったように泣いた。
「くっ・・・くうぅっ・・」
という声にならない声が部屋に響いた。
どう声を掛けたら良いのか、わからず、その人の隣に座って、
父の写真を一緒に見ていた。
「本当に良い人だったですよ。
去年も店で(帰ってくれば良いでえ)って言ってもらって
それで帰って来たのに・・」
とその男性は言った。
(良かったねえ)
と父の写真を見ながら、ぼくは大きな声で言った。
そうして頭を下げて、その人を見送った。
もうじきお盆も明けて、何もかも焼いてしまう日が来る。
生きているって何かなあ? と尋ねる人もいない。
同じく死ぬってどういうことかなあ? と尋ねる人もいない。
経験した父に訊いてみたいけれど、父はただ遺影の中で
笑っているだけである。
前歯が抜けてそれがチャーミングに見える。
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