日本で唯一の屋根に椿の木を植えた店舗から作家、社長、杜氏である谷口英久が綴る抱腹絶倒の「Blog」
大島の太陽と潮風にさらされた味わいのある。
04/Jan.2017 [Wed] 18:29
ジーンズの膝がよく破れる。
立ったりしゃがんだり、という動作が多いらしくて
膝が擦り切れて、そのうち破れる。
それでも、もったいないので、膝を縫って履いている。
裁縫の得意なリエさんという女性に頼んで
膝に布を当てて、一針ずつ丁寧に縫ってもらった。
ところが、ジーンズの生地自体が劣化しているのか
継ぎをあてても、やはり膝が貫けてゆく。
(これはもう寿命かな?)
と思ってあきらめた。
そういうジーンズが三本もあって、捨てようか?
と迷っているときに
S原さんという建築家と飲むことになった。
S原さんは藤森さんのお弟子さんで、今は東京の
建築事務所で働いている。
その前はロンドンにいて、やはり建築事務所で
働いていたのだそうだ。
ロンドンには古着屋さんがたくさんあって
そこをを巡るのが好きだったという。
日曜日に市が立つと足しげく通っては古着を
探していたらしい。
「ぼくのジーンズで良い味になっているものが
何本かあるんですけど、興味がありますか?」
と訊いてみると、即答で「欲しい」と言われた。
「焼酎造りの激しい仕事で、破れた膝を何度も継いだような
ものですよ?」
としつこく確認した。
こんなものを欲しいという人がいること自体、驚きだったからだ。
伊豆大島に戻ってから、そのジーンズをS原さんの
ところに宅急便で送った。
すぐに連絡が来て、どれも良いという。
あれから四年が経って、またジーンズの膝が切れた。
たてつづけに二本、ダメになってしまった。
アイロンでくっつける膝あてがあって、それを裏から
あててみたけれど、やはり生地が薄くなって
二三回履くと、また別のところが破れてきた。
今日、スマホを見ていたら、ニュースで
瀬戸内海の漁師さんが一年間履いたジーンズが
元の値段の倍で売れた、という記事が出ていた。
瀬戸内の海と太陽で、良い味に色落ちしたジーンズを
欲しがる人が多いのだそうだ。
そうか、やっぱり欲しい人がいるんだ。
(ぼくのジーンズも売れないかなあ?)
と妻に言うと、
「ダメでしょ」
と一言で片付けられてしまった。
せめて新品のジーンズと交換してくれるような人が
現れないものかなあ? と思った。
大島の潮風と、焼酎造りの現場で耐えてきた
味わいのあるジーンズ。
いいじゃないですか。
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おせんべいの季節。
11/Dec.2016 [Sun] 18:05
オカムシちゃんが、おみやげに油で揚げたおせんべいを
持ってきてくれた。
ぼくは出かけていなかったのだけれど
工場に戻ると、机の上にそのおせんべいが置いてあった。
これ、去年だったか、食べては苦しみ、食べてはまた苦しい
思いをした、あのせんべいだったことを思い出した。
それでも食べたい気持が先走って、封をあけて
ひとつ、口に入れた。
美味しい。
醤油とせんべいの香ばしさが口の中で拡がってゆく。
うん、これはうまい。
でもあとで油が胃の中に沁みて
もだえ苦しむことになるぞ、と思いながら
もうひとつ食べた。
胃はまだ大丈夫。
そう思ってもうひとつ、口に入れた。
美味しい。
本当に美味しい。
結局五つ食べたところで、胃が苦しくなってきた。
なんといったらいいのか、胃に流し込んだコンクリートが
固まりはじめて、重くなってゆくような気分である。
その固まりにさらに鉛を入れて、硬く重く
身体の中心に据えたように存在感を増してゆく。
家に帰る頃には、その苦しみは最高潮に達して
ご飯を食べたあと、布団に入ってからも
海老のように身体を丸めて気持ち悪さを凌いだ。
朝になって治ったか? というとまだ苦しい。
「これを食べると胸焼けがするんだよね」
とオカムシは嬉しそうに笑いながら妻にせんべいを渡してくれたらしい。
「食べなきゃいいのに・・・」
と妻に言われた。
今年は五つ、このおせんべいを口にしたところでダウンした。
さて、来年はどうするだろう?
またこのおせんべいを貰って、ぼくは食べるだろうか?
食べるでしょうね。
バカだなあ、こいつ。
来年も苦しんでのたうちまわる様子が眼に浮かぶので
(バカだなあ・・・)
と思った。
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離島で暮らすということ。
02/Dec.2016 [Fri] 17:08
お風呂を沸かすボイラーが壊れてしまった。
スイッチを押しても、燃焼しない。
エラー番号が何度も出る。
これは困ったことになったなあ、と思った。
このボイラーを直す業者が大島にはいないので
東京から来てもらうことになってしまう。
そうなると旅費に出張費もこちらで出すことになり
さらに修理代もかかるのだ。
なんだってこんな器械を取り付けたのか、
設計者に訊きたいけれど、当の本人である
大嶋さんに電話をしてもまるで埒が明かない。
それで、このボイラーの会社に電話をして
修理の依頼をしたのだけれど、
取り付けてからの年数がずいぶん経ってしまっているので
修理できるかどうか、わからないという。
修理でなければボイラーを丸ごと換えることになるので
そうなると東京から大島に来ても無駄足になってしまう。
それでも良いかどうか? と訊かれた。
うーん、困りますよね。
自分でボイラーの器械を開けても、何がどうなっているのか
まるで判らないのだ。
焼酎の器械は、ある程度のことは判る。
テスターを使いながら業者と電話でやり取りをして
故障している部分を探ってゆく。壊れている部品を送ってもらい、
それを自分で交換すればなんとかなる。
ところがこのお風呂のボイラーはこの会社の人しか
修理が出来ないのだそうだ。
iphoneの蓋を他の業者が開けるとアップルはアフターサービスをしないことに
なっているのと同じで、このボイラーも他の業者では修理が出来ないらしい。
しかし離島でそんな器械を使ったら、あとで困ることは
眼に見えているのになあ。
ということで、これからどうしたら良いのか、まるで行き詰ってしまった。
大島の業者では直せない。
東京からそのボイラーの会社の人に来てもらっても
直せない可能性がある。
それでも出張費と旅費はこっちで払う。
あっ、こういう話はリトケイこと離島経済新聞に書けばぴったりだ。
今月号に単発の原稿を書いたばかりだけれど
またネタが見つかった。
離島で暮らすということは、こういう困った問題も出てくる。
器械が小さければ宅急便で送ることもできるのだけれど
ボイラーのような大きなものでは、それも難しい。
やれやれ。
本当に困っています。
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面白い顔だなあ  5
22/Aug.2016 [Mon] 16:52
「良いでしょう? この写真?」
と植村さんに言われた。
返事にとても困った。
帰るときにその写真をお土産に貰った。
家に帰って、テーブルに立てかけて、その写真をもう一度
眺めてみた。
やっぱり、さっきと同じく、つかみどころのない
不思議な人だなあ、という印象を受けた。
愉しそうに生きているけれど、しかし、この人と
話してみたいか? と言われると、うーん、今はちょっと・・・
とも思ってしまう。
視線が強いのだ。
かといって、押しが強いというのとは、ちがう。
不思議な人だなあ、と思った。
それでこの写真をどこに飾ろうか? 考えてみたけれど
どうにも、飾るところが思い当たらない。
工場のトイレはどうか? と妻に言うと
「やめて」
と即答されてしまった。
まあ、そうだろう。
植村さんは、やっぱりこの顔が撮りたかったんだろうな。
もし自分がこの人を街のどこかで見かけたら
「写真を撮らせてもらえませんか?」
とお願いしたいような顔をしているなあ、と思った。
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面白い顔だなあ 4
21/Aug.2016 [Sun] 16:41
最近になってその植村さんから葉書が届いた。
港の近くに喫茶店を開くことにしたので、まずは
そこであの時撮った写真を展示したい。
開店の前日にささやかながらオープニングパーティを開くので
写真を見に来てください、と葉書には書かれていた。

写真は、ぼくだけが顔のアップで写っていた。
他の人は、みんな、物と一緒に写っている。
しかし、自分だけは、一生懸命喋っている顔のアップだった。
楽しそう、といえば楽しそうだけれど、
客観的に見て、一体この人はどういう人なんだろう?
という印象を強く受けた。
自分の写真を見て、そんなことを言うのはヘンだけど
でも、本当にそう思った。
ウクレレを趣味で作っている人はそのウクレレを二つ並べて
その中央に収まっている。
少し恥ずかしそうな、人の良さそうな印象で写っている。
矢沢永吉が好きな人は、その集めたグッズと一緒に写真に
収まっている。
E、YAZAWAと背中に大きく描かれたTシャツを着て
こっちを振り向いている。
硬い印象を受けるのは、サングラスをしているからだろうか。
陶芸をしているおじさんは、白い壁の前に座って
自分の作った花瓶を前に写っている。
透明な印象の良い写真だった。
しかし、自分は、印象が複雑なのだ。
写真を見ても、「こういう人」という断定が出来ないような
顔つきをしている。
良い人というのでもないし、うーん、なかなか掴みどころが
あり過ぎて、うーん? 一体この人は何でしょうね?
と視線が釘付けになってしまう。
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面白い顔だなあ  3
17/Aug.2016 [Wed] 18:00
「まあさ、適当に撮るから。緊張しなくていいよ」
と植村さんに言われた。
世間話をしながら、植村さんの撮るカメラに収まった。
しかし、次第に犬のことを思い出して、厳しい、レンズと対峙するような
気持になっていった。
あれから五年経って、そういえばあの写真はどうしたんだろう?
と、ときどき考えた。
「発表する形を考えているから、それまでは撮った写真は
見せられないんだよ」
と植村さんは会うたびに申し訳ないような
顔をして言った。
(そうなんだ。まあ、良いよ。そういうことだってあるよな)
ぼくはそう思って、頷いた。
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面白い顔だなあ  2
16/Aug.2016 [Tue] 18:08
写真家は植村さんと言った。
その植村さんと話しているうちに、飼っていた犬が死んでしまった、
という話しをつい、ぽろっと、話した。
趣味ではないけれど、本当にいつも一緒にいた犬が死んでしまって
寂しいという範疇を超えて、ごっそり何かをえぐりとられてしまったような
気持になった、という話をした。
それならその飼っていた犬の首輪とか、リードと一緒に写真を撮ろうか?
と言われた。
まあ、それでもいいですよ、と答えて、撮影の日にスタジオまで行った。
行った、と言っても、仕事の合間に、歩いてそこまで出向いた、という
簡単なものだった。
スタジオは、島の古い家を改造したもので、広い何もない空間に
スクリーンが立てかけてあった。
そこに立ってカメラを前にした。
知らない乗りの良い曲が大音量で掛かっている。
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面白い顔だなあ 1
10/Aug.2016 [Wed] 18:26
五年前だったか、近所に住む写真家という人から
写真を撮らせてほしい、という話があった。
見たことも会ったこともないひとで、そんな人が
この村にいるのか? と思った。
一体どうしてぼくなんかを撮りたいと思うのか?
と不思議に思った。
島の男を撮りたいのだそうだ。
会って話してみると気持の良い人で、この人なら
良い写真を撮るだろうな、と思った。
その人の手作りのスタジオで、写真を撮ることになった。
コンセプトは趣味にしていることか、好きで没頭している
ものがあれば、その作品か、愛でている物と一緒に写真を撮りたい、
ということらしい。
しかし、ぼくには、そういうものが、ない。
原稿を書いても、原稿用紙を持って、というのもおかしいだろう。
焼酎造りは趣味ではないし、そういう意味ではぼくには
趣味というものがないのである。
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眼鏡の修理を心配してくれる友達がいる幸せ。
15/Jul.2016 [Fri] 18:50
古い友人のT浦君からメールが来た。
このブログに書いてあった眼鏡の修理はどうしたか?
と心配してくれているらしかった。
書いてから更新をしていなかったので
どうしたか? と思ったのだろう。
ホームセンターで、補修用のパテというのを
見つけて、それを買ってみた。
A材とB材を合わせて練ったあとで
それを接着剤として使うものである。
眼鏡の折れた部分の裏側からそのパテを盛って
接着をしたあとで乾燥させた。
それから、黒い塗料を塗った。
これが案外うまくいって、それから一ヶ月、
修理もせずに毎日その眼鏡を掛けている。
そうT浦君に伝えると、そうか、それは良かった、
と言ってくれた。
T浦君の考えでは、薄い金属を眼鏡に合わせて切ったあとで
強力な接着剤で裏から張り合わせれば、強度もあるのではないか?
と言う。
たしかに、それならうまくいくように思った。
どうしてこんなに親切に教えてくれるのか? というと
同じように彼の眼鏡も壊れて、自分で修理をしたからだという。
鼻あての部分が折れてしまい、修理に出すと5000円近く
取られるという。
今は眼鏡なんて一万円もしないで買えるのだ。
安くても気にしないのであれば、乱視が入っていても
その程度の値段で作ることができる。
よほど気に入ったもので、どうしても修理したいのなら別だけれど
そうでなければ、壊れたら新しいものを作ったほうが安くつく場合の
方が多い。
しかし、自分で直せるのなら、また、そこに新しい愉しみが湧いてくる。
もちろんお金がもったいない、ということもあるけれど
自分で直すと、不思議な愛着が湧いてくる。
だから、なるべくなら自分で直すのも楽しみである。
家も、服も、カバンも、自分の一部になったような気持になる。
仕事の道具であれば、なおさらだ。
T浦君も同じような気持があるのか、ないのか
そこのところは聞かなかった。
自分の書く話しが読み手にとって面白いのかどうかも
よくわからない。
そのわからないところで、こうして反応してくれる
友達がいて、わざわざ連絡をくれるところがなんだか不思議な
気持になった。
細く繋がった糸電話から微かに聞こえる、懐かしい声に
耳を澄ませるような気持ちである。
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爪楊枝を添え木に。
01/Jun.2016 [Wed] 7:16
眼鏡がね、壊れてしまいまして。
レンズとレンズのあいだの、眉間のところの
ブリッジというんですか?
そこが折れてしまったんです。
薄い金属で出来ているんですが
「とにかく強いから、どうやっても折れないのよ」
と買うときに言われて、
「そうか、それは素晴らしい」
と思って買ったんですね。
そうしたら、あっさり、折れてしまった、と。
まだ二年も使っていないので、がっかりしました。
台湾で買ったものだけど、しかしこれを直すとなると
保障も効かないだろうし、全部取り替えることになれば
お金も掛かるだろうなあ、ということで
なんとかならないものかなあ? と思ったわけなんですね。
悩ましいのは、そのブリッジの上の部分が折れて
下はまだなんともないので、完全には折れていない、というところ。
なんとか直して使えないものか? と
思うわけなんです。
でもね、薄い金属ですから、接着剤で付けても
一日は持たないわけなんです。
朝に接着剤を付けて、
「お、こりゃ良いかな?」
と思っていると、夕方には外れてしまう。
毎日、朝になるとまず眼鏡の修理で、
これが日課になってきたんですけど
しかし、朝は忙しいんですから、
もう少し良い方法はないものか? と思って
考えました。
東京に出かけたときに東急ハンズに寄って
この眼鏡を見せて、
「なにか良い方法はないものか?」
店員さんに聞いてみたんですよ。
そうしたら
「さあ、これは、ちょっと・・・」
とあっさり。
「薄い金属だから、接着は無理でしょうし・・・」
と言うこと。
確かにそれは無理なので、
「じゃあテープで巻くとか?」
と訊いてみると、
「あっ、それならテープはこちらに色々ありますけど・・・」
と言われて、強力なテープというものを見せてくれたんですね。
しかし、テープで巻くと、見た目が、もういかにも修理しました、
という様子で、やっぱりうまくないだろうなあ、と。
店員さんは、
「もしテープで巻くなら、添え木を当てたほうが
良いでしょうね。爪楊枝とか・・・」
うーん、それはちょっと恥ずかしい。
話している相手にも気付かれてしまうくらいの修理の方法と言うのは
ちょっとどうかなあ?
一応、会社の代表という肩書きもあるし、
まあ、笑いは取れるとしても、うーん、これはダメだろうなあ。
と思って、そこでは何も買わずに帰ってきました。
あのときの店員さんの嬉しそうな
ちょっと吹き出しそうな顔は忘れられませんね。
「爪楊枝を添え木に・・・」
って、言いながら、もう、今にも笑いそうになっている
あの表情って言うんですか。
まあねえ、色々なことがあるもんですね。
毎朝、この眼鏡を修理するたびに
あの店員さんの表情が一緒に頭に浮かんできて、
忘れられない思い出になってしまいました。
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