日本で唯一の屋根に椿の木を植えた店舗から作家、社長、杜氏である谷口英久が綴る抱腹絶倒の「Blog」
停電の夜
20/Mar.2021 [Sat] 6:17
家に帰ると電気が点かない。
今日は早く帰ってきたので少しゆっくり出来るなと思ったのだけどこれは困った。
姉に電話をして聞いてみると四時半くらいから停電になってしまったらしい。
暗くなってきたのでロウソクに火を灯して、寒いのでガスボンベのストーブで暖を取った。
エアコンは便利だけどこういうことがあるので他の設備も用意してある。
外はどんどん暗くなって、とうとう日が暮れてしまった。
こりゃだめだ、囲炉裏に火を入れよう。ガスは点くし、水道も出る。電気が無くて困るのは風呂に入れないことだ。
主な燃料は灯油だけど電源がないとボイラーが炊けない。
炭を火起こしに入れてガスで火をつけた。
ものすごく静かで、流しから水滴の垂れる音が聞こえる。それから炭のはぜる音と共に炭の匂いが闇に広がってゆく。
ロウソクの灯りだけではほとんど見えないので懐中電気をつけて必要なことをする。
六時を過ぎてもまだ電気は来ない。妻にご飯を作ってくれないか聞いてみる。
ブロッコリーを茹でてツナのサラダを作るつもりなんだそうだ。
懐中電灯の光の中で鍋の湯気が盛り上がる。火山の爆発のようだ。
停電はこの近辺だけらしく、道を隔てたすぐ上は街灯も点いている。
しかし困った。
もう来るか、と思いながら電気を待つけど、来ない。
いつ頃復旧するのか東電に電話をしてみたけど、調査中だということだけで埒があかない。
囲炉裏の前で寝転がってぼんやりする。寝てしまいそうだ。
お風呂に入りに温泉に行こうか? と思いまだやっているのか温泉宿に電話をしてみた。
一軒はものすごく感じが悪く、その応対にびっくりする。
三原山の上にある温泉はまだ入れるということで、車で行ってみることにした。
混んでいるとコロナ感染が怖いけど空いているということ。
車で小一時間走れば着く。
わーい温泉だ。たまには良いよね、と妻と話す。
ところが山を登り始めると霧が出始めて道が見えない。
ホテルがどこにあるのか、その入り口も見えないくらいの霧となってしまった。道の両端にある反射板を頼りにのろのろと走った。一度温泉の入り口と間違えて、変な道に入りそうになって慌てた。バックをしようにも何も見えない。かと言ってUターンが出来るほど広くもないからだ。こんなところでU字溝にでもタイヤがはまれば身動きが取れなくなる。危なかった。
こんな日もあるよね、と妻と話した。
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いやはやおじさん今日も奮闘。
04/Mar.2021 [Thu] 15:49
エアコンの修理の人が東京から来てくれた。
こちらの仕事が終わるのを待ってもらい、帰る時間に合わせて家の前で落ち合った。
急いで家の中を片付けて玄関にスリッパを揃えて、家に入って貰った。
「あ、恐れ入ります」と言って修理の人はそのスリッパを履いた。
マスクをしているのでわからないけれど若い男の子というような風情である。
「エアコンはどこに?」と聞かれたので正面の部屋を指して「あそこです」と言った。玄関から板の間が続き、そこに食卓がある。障子を隔てて畳敷きの六畳間があって、そこに設置してあるエアコンが壊れたのだった。
修理の人はそのままスリッパを脱がずに畳の部屋まで入ってしまった。
(あれ? 慌てているのかな? )と思ったけれど、そういう様子でもなくスリッパは脱がないまま部屋の中を歩き回っている。
そうか、畳の部屋ではスリッパを脱ぐことを知らないんだ。
日本に来る外国人ならマナーも勉強していて、靴を脱いで玄関から入る。畳の部屋ではスリッパを脱ぐことも知っている人が多い。
多分この修理の人は畳のないマンションの家で育って、そういうことも知らないのだろう。
「ここまで来たか」と思ったけれど、面白いものを見た気持ちがした。
文化やしきたりはどんどん変わる。畳のない家で育てばその使い方や作法だって知らなくて当然だろう。
いやびっくりしたな、もう。
若い人がこれを読めば「何言ってんだ。このオヤジは?」ということになるんだろう。
まさにいやはや、という気持ちである。
世の中はどんどん変わっていく。
こんな田舎に住んでいてもそれを実感することが起きて、文化の違いに驚かされる。
なんでも対処していかなければいけないんだろうけど、まさに(いやはや)という気持ちだ。
いやはやおじさん、頑張れ〜。
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眠るときに耳栓しますか?
20/Dec.2020 [Sun] 9:54
急に寒くなってきたせいか風が強く吹いている。
そのせいで屋根の修理をする夢をずっと見ていた。
屋根がバタバタ音を立てていて、その箇所を探しているのだけれど、どうしても見つからない。
たしかあそこだったはずだけどなぁ? と思いながら屋根に登っても壊れているふうではない。変だなあ、ここじゃないのか? と思ってまた別の場所を探す。
音はたしかにバタバタ聞こえているので、そこを直しておかないとまた屋根が飛ばされてしまう。
そんな夢だ。
音が聞こえているのは現実で、風で煽られたベニヤ板が一度持ち上げられた後で、元に戻る。その時に大きな音がするのである。
太い針金で縛ってあるので飛ばされないとは思うけれど、これだけ強い風が吹くと煽られて音を立てるのだ。
眠ってるあいだにその音を聞いて、夢の中で修理箇所を探しているのだろう。
屋根に登って修理をしなきゃと思いながら焼酎の仕込みに追われて帰ってくるともう真っ暗になっている。倉庫の屋根は波板スレートという部材で、それを発注して取り付ければ良いのだけど、台風以降その部材が手に入らない。仕方なくベニヤ板を張って、針金で縛ってある。一人でやった素人の仕事なので雨さえ凌げれば、というくらいの工事だ。
家に帰るとまた風が吹いてベニヤ板がバタバタしていた。今日は耳栓をして寝よう、と思いながら、それも忘れてしまいぐっすり眠った。
なんだよ、耳栓必要ないじゃん?    
と朝起きてから思った。
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お元気ですか?
13/Dec.2020 [Sun] 7:17
谷中に住んでいた頃のことを急に思い出した。
母親が亡くなったあとそれまで二人で暮らしていた部屋を引き払い、改めて谷中にアパートを借りて一人で暮らし始めた。
癌の末期だった母親が亡くなって、
死ぬということはどういうことなのか
初めて真剣に考えることになった。
生きていた人が急にこの世からいなくなることが
本質的にはどういうことなのかわからなかった。
これからどうやって生きて行くのか
それも改めて考えなければいけない時期に来ていた。
原稿を書きたいと思っていたものの、どうやってそれを仕事に結びつければ良いのか? まるでわからなかった。とりあえずどこかで
働かなければならない。
アパートの近所に洒落た喫茶店があり、ここのコーヒーが美味しかったので
働かせてもらえないか、聞いてみた。その店の扉を押すまで、ずいぶん時間が掛かった。
当時ぼくは24歳で、歳の近い若い子が多く働いていた。
その人たちは今どうしているんだろう、
と急に懐かしく思い出したというわけである。
その中の誰かといまだに連絡を取っているわけでもなく
みんなあだ名で呼び合っていたので
本名も思い出せない。
店長だった佐藤さんの名前は覚えているけれど
マヤちゃんやコンちゃん、ニキちゃんは
どうしているんだろう? と思った。
もうそれぞれ家庭を持って、お孫さんがいる人も
いることだろう。
あの頃はお金もなくて、毎日部屋で原稿を書くことだけに
必死だったなあ。書きたくてもうまく書けないことの方が多くて、自分でもどうしたらうまく書けるのか、途方に暮れることが多かった。お金がなくて困ったなぁと思って歩いている時に保育園で遊んでいた女の子が寄ってきて金網ごしに「大丈夫よ大丈夫だから」と言ってくれたことがあったっけ。不思議なことだったけれど、そうか、大丈夫なんだ、と思った。
あれからもう三十年も経ったわけか。早いもんだなあ、本当に昨日のことのようだ。
コーヒーの勉強もずいぶんして、それが今の焼酎造りの役に立った。人生何が起きるかわからない。懐かしい思い出である。 
今日は夕陽がきれいだった。
ヒヨドリの群れが青い空を飛んでいった。それをいつまでも見つめていた。
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まるで犬みたい。
08/Dec.2020 [Tue] 13:33
エアコンの暖房が効かなくなってしまった。
先週は動いていたのに、今日になったらちっとも温かい風が出てこない。
それでもジーっとその前で待っていた。壊れているのにそれに気が付かないまま座っていることに気がついて、「犬みたいだな」と自分のことを思った。
しかし困りましたね。このエアコンの会社は島の中には業者がいないので、東京から出張修理を頼まなければいけない。
まず型番を調べて、電話をしなきゃと思いつつ帰ってくるとお風呂だ、洗濯だ、洗濯物を干して、乾いたものを畳んで、お風呂掃除。やれやれそれが終わってから一杯飲むともう眠くなってくる。
という繰り返しで型番を調べるだけで三日も掛かってしまった。
島に出張修理となるとその人の船賃もこっちで負担するのかな? 嫌だなと思いながらまた何日か過ごした。
まぁ灯油ストーブでもいいか、しかしそれも臭くて面倒なので家の中でダウンの上下を着て過ごしている。
焼酎のもろみは冷え込まないように厳重に暖房を入れているのに自分は家の中でダウンを着て寒さを凌いでいる。
いつになったら直るのか、だからまず電話をしなさいって、話はそこからだろ? と自分に突っ込みを入れている。
ああ、型番を調べなきゃ、って、夢の中でも考えている始末だ。
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びがたりない。
06/Dec.2020 [Sun] 14:57
交通安全週間になると道路脇に看板がやたらと立つ。
誰が作るのか五七五に習った標語が白い看板に太い黒字で書かれている。
それが漢字を使わずみんなひらがなで書いてあるので読みにくい。
字が書いてあるとつい読んでしまうのだけど、ひらがなだと一瞬で読めない。運転中によそ見をするので危ない。
気をつけなくちゃと思いながら帰り道にまたそれを見てしまう。馬鹿だなあ、と自分のことを思う。
標語といってもシートベルトをしようとか、運転中にスマホを見ると危ないとか、車の影から人が飛び出すから気をつけよう、とかそういうものを俳句風に書いてあるのである。
その中にひとつ気になる看板があって、「飛ひ出すな左右確認忘れずに」というものなのだけど、「飛び」の「び」に点が振ってないのである。書体は荒ぶる魂のような渾身の看板なのだけど、びの点が抜けてしまっている。
最初は、なんだか変だなあと思って仕事の行き帰りに横目で眺めていた。そのうちに「あ、びの点がないんだ」ということに気がついた。しかし、看板を見ている間は必ずよそ見をしているわけで、これも運転手泣かせだなぁ。
墨を用意して、車を降りてひに点を入れたいけど、こういうことをすると道交法違反になるのかもしれない。他の看板は安全週間が終わると同時に撤去されたけど、この点抜けの看板だけはいつまでも飾ってある。偉い人が書いたものなのかもしれない。
「まーた細かいことをタニグチが言っているよ、あいつは本当に細かい」と言われそうだけど原稿を書く身としてはこういうことは気になって仕方がない。
誰がこの看板に点を入れてくれー、と会社の行き帰りにそう思っている。
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小僧物語ってありましたね。
01/Dec.2020 [Tue] 14:43
玄関の照明器具が錆びてきたので
直していると
外を誰か通りがかっている気配が後ろから聞こえた。
なにしろ脚立に乗って両手も塞がっているので
振り向くこともできない。
結構な数の人の声で、そのうちの一人の人が
「ここって、有名な?」
「そうそう。ほらあの江戸博物館の・・」
「人がいるから聞いてみたら?」
などと言い合っている声が聞こえる。
あっ、やだなあ、今日は日曜日で
できればこのまま通り過ぎてくれないかなあ?
と思っていると
「すみませーん」
と声を掛けられた。
もうこうなると仕方がない。
「はい?」
と言って脚立から降りて返事をした。
「この屋根の草はわざと?」
と、眼鏡を掛けた男性に聞かれた。
みんなトレッキングをしているようなスタイルで
登山靴にリュックも背負っている。
「はい、わざとです」
となるべく簡潔に答える。
「ここって、もしかしてあの江戸博物館の?
えーと、なんだっけ、フジ・・・?」
「そうです、藤森さん。江戸東京博ですね」
とぼくは答えた。
藤森さんは今は江戸東京博の館長も務めているらしい。
とにかく偉いのである。
「どうしてその藤森さんがここに?」
と聞かれた。
「あっ、藤森さんとは仲良くさせていただいて
藤森さんが作る建築の手伝いをしていたんです。
その縁でこの建物の設計をお願いしました」
と答えた。
赤瀬川さんのことや縄文建築団のことを言っても
話が長くなるだけだろうと思った。
もうお昼で、妻がご飯の支度をしている匂いが漂ってきている。
「お父様が? ですか?」
と聞かれたので
「いえ、ぼくです」
と答えると男性は納得がいかないようで
「お父様でしょ?」
ともう一度聞かれた。
良いなあ、ぼくのような小僧があの有名な藤森さんと
知り合いであるはずがない、と思われているらしい。
もう六十歳に近いのに、小僧に見られているなんて
俺も捨てたもんじゃないぞ、と思った。
写真に撮ってブログに載せたいというので
それは丁寧にお断りした。
人がたくさん来るのは好きじゃないし
対応できないから、とやんわり言った。
人々は納得したように頷いて、屋根の上の椿や
草茫々のとんがり屋根を見ながら、ガヤガヤと坂を下りていった。
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とにもかくにも応急措置。
07/Oct.2020 [Wed] 13:38
ツバキ城の二階の窓の桟が腐っていることに気がついた。
ここは水が掛かるので腐りやすいんだろう。
なにしろ毎朝晩、屋根から水を撒くのである。
腐っていることに気がついてからも自分の具合が悪かったので
放置してあったけれど、台風が来ると水が中に入り込むので
修理することにした。
大工さんに頼めば良いと思っていたけれど
大工さんは忙しくてなかなか来てくれないのである。
それで自分で応急措置だけでもしてみようと
思い立った。
ちょうど良さそうな材木の切れ端をあてがってみると
これがうまくはまりそうだった。
それならと思ってノコギリで切って、ネジで止めてみると
あら不思議、直ってしまった。
少なくとも窓の開閉はできるようになった。
気を良くして、次の日は外からの修理をしてみた。
水が掛かっても良いように、桟を漆喰で塗ってみようと思った。
漆喰では弱いので、そういう時には
これが効くんですね。
エクセルジョイントというのだけれど、固まると水にも強く、強度もある
万能の商品である。
これをボンドで溶いて、コテを使って塗ってゆく。
うまくいった。
しばらくは大工さんを頼まなくても大丈夫だろう。
また台風が一つ生まれたらしい。
九州に行くか、という予報だったけれど
やっぱりこっちに向かってくるという。
そうでしょうね。
大陸の高気圧に押されて、元気よくこっちに向かってくるのだろう。
嫌だけど仕方がない。
壊れたらまた直そう。
大工仕事もずいぶんできるようになった。
応急措置で良いんだ。
一生、それでやり通すことだってできる。
人生応急措置。
良いなあ、このフレーズ。
左右の銘はなんですか?
人生応急措置。
なにしろ笑えるのが良い。
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こんなに急にダメになるものなのか?
29/Sep.2020 [Tue] 13:38
冷蔵庫が急に冷えなくなってしまった。
裏側の羽の音が煩くなったので
引っ張り出して、油を差したのだけれど
音は静かになったものの
静かに急激に温暖化が進行している。
まず冷凍庫の中が冷えなくなって
氷が溶け、さらにパンや魚類、たまに食べる
肉も溶け始めた。
これはまずい、と思っているうちに
冷蔵庫の中も温暖化が進んで野菜が傷みはじめた。
義理の母が使っていたものをもらい受けて
使っていたので、二十年以上使ったのだと思う。
いやー、しかしこんなに急にダメになってしまう
ものなのかどうか、わからないけれど
とにかく使えないので困った。
そこで倉庫に入れてあった古い巨大な冷蔵庫に
電源を入れてみるととりあえず冷えることが判明。
しかしこんなに大きなものをどうやって運び込むのか?
途方にくれる。
そこで運送屋さんに頼んで
動かなくなった冷蔵庫を外に出し
この巨大な冷蔵庫を家の中に入れてもらうことにした。
玄関からでは入らず、縁側のガラス戸からなんとか入れた。
ふぃー、これで一安心かと思っていたら
今度はこの冷蔵庫も冷えなくなってきた。
外側は熱を発して、中は冷えず、とりあえず冷凍庫だけが
少し冷えるだけというような状態である。
こりゃダメだ、ということで急遽冷蔵庫を買おうと
思うけれど、島嶼に送る事はできない
と、どこのショップでも言われてしまう。
どうしたら良いんだ? と思うも氷はない、
水も冷えない、野菜も貯蔵できない、肉は腐る、
といった状態である。
冷蔵庫というものはこんなに急に壊れるものなのかどうか?
人生にはわからないことが沢山ある。
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こんなもの誰も欲しがらないだろうな。
12/Sep.2020 [Sat] 13:21
ラジカセの巻き戻し機能が
壊れたことは以前書いたのだけれど
テープを巻き戻す良い方法がないか、考えていたんですね。
そうだ、それなら、電池とモーターで動く巻き戻し器を作ったらどうなのか? と自分の中で盛り上がった。
プラモデルに使うモーターを動力にして、軸を延ばしてカセットテープに繋げば良いのである。
うーん、これは良いかもしれない。
しかし動力がどのくらいの速さで回るかが鍵になるだろう。
あんまり速いとテープが千切れることもあるし、逆にゆっくりだと話にならない。
そんなわけでネットでモーターを見てみると、四段階にギアの調節のできるモーターが売っていた。
それが届いたので早速組み立てに入るか? というと、そうでもない。箱を開けてみたら、ギアの組み立てが難しすぎてわからないので困ってしまった。
こりゃダメだ、という訳で一週間、放置してあった。
仕事場では暑くてやる気がしないので、家に持って帰って、
酔った勢いでやってしまおう、という作戦にした。
酔うと頭のハードルが下がるので、難しく見えるものも、一つずつ順番にやっていけば案外出来てしまったりするのである。
取り扱い説明書を見るとギア比によって、回転する速さが決まると書いてある。
しかし、そのギア比というのがわからない。こういうものは小学生向けに書いてあるのかと思ったけど、そんなことはなくて、難しいのである。とりあえず、一番速い回転数だと思われるものを選んで、それに必要なパーツを組み立てていくことにする。
しかしこの取り扱い説明書はモノクロの印刷で、今度はこのパーツで良いのかどうか、迷ってしまう。やれやれ、こういうことは不得手なんだ、ということが今になってわかる。やめれば良かったか? と弱気になるけど、しかし、もう後には戻れない。ま、失敗したって良いんである。
気楽に行こうぜ、と自分に暗示をかけてなんとかモーターを組み立てた。
さて次は木工の仕事。カセットテープがしっくり収まるように、まずモーターの軸に合わせて板に穴を開ける。それからモーターの軸の先にコルクを取り付ける。これがカセットテープの、穴の片方に入ってテープを回す役目をする、という壮大な計画。
木工の仕事は正確に距離を測って切ってゆくということが
まず苦手である。
たいてい寸法を間違えたり、面倒くさくなって
適当に切ってしまうことがよくある。
それでもなんとか、綺麗に材木を切った。
次に穴を開ける作業。
これも穴の位置を間違うとモーターの軸がずれてしまうので
緊張する。大体、どうやってこの穴の位置を決めるのか
大汗をかいて作業をした。
モーターの軸の先に付けるコルクは切り出してみると
完全な丸にはなっておらず、付けて回してみると
よれてしまう。
そこで鉛筆を少し切って、芯の部分に穴を開けた。
これでうまくいくかもしれない。
手が芯だらけになったけれど、早く次の作業に入りたい。
どうか? 
うまくいった。
試しに電池を入れて、モーターを回して、カセットを
巻き戻してみる。
おおー、素晴らしい。ゆっくりだけど確実に巻き戻している。
満足した。
妻に見せると、すごいすごいと言って褒めてくれる。
こんなことをしているうちに八月が終わってしまった。
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