日本で唯一の屋根に椿の木を植えた店舗から作家、社長、杜氏である谷口英久が綴る抱腹絶倒の「Blog」
不思議な装置
08/Jul.2018 [Sun] 19:38
大島では「お棚」という独特の風習があって
これは亡くなった人を弔うための新盆の儀式である。
白い提灯に戒名を書いたお札を貼り、その提灯に
手と足を模した切り紙をぶら下げる。
これを天井から吊るして、飾る。
その脇に、お葬式で使った白木の位牌と香箱を置く。
あとは一本の串に四つ、団子を指して、これを四本並べる。
キュウリと茄子に爪楊枝で足を付けたものも飾る。
それを新盆の十六日前から家に祀って、近所の人が線香をあげにくる。
新盆が開けて、七月十六日になると、浜で、その飾ったものをすべて火で焼いてしまう。
「お炊きあげ」という行事で、そうやって、ようやく故人は
家族と別れてあの世に行くのだそうだ。
そのお炊きあげのときには、人型を模した提灯も焼いてしまうので
まあ本当にこれで死んでしまった人と袂(たもと)を分かつ、ということなのだろう。
しかし、この季節なので、串に指した十六個の団子は
すぐにカビが生えてくるし、仕事をしながら、団子を作るのは
なかなか大変なことだなあ、と考えてしまう。
先週はこの棚を飾るのに奔走した。
まず、提灯を吊るのに、一苦労をした。
売っているものを買えばそれで済むけれど
それではあまり供養にならないような気がして、
どうにか自分で作れないものか、と思った。
しかし、手と足を模した切り紙も複雑で、写真を見せてもらっても、
これを自分で作るのは無理だろうな、と考え直した。
昔は、この切り紙が得意な年寄りがいて
それぞれの家を廻って、ひとつずつ作ったのだそうだ。
今となっては作り方を教えてくれる人もいないので、
仕方なく、売っているものを買った。
お寺に戒名を書いたお札を貰いに行き、それから白い布を買いに
洋品店に出かけた。
洋品店なんて、もう東京にはないだろうなあ。
こういう単なる白い布は、東京ではどこで買えるものか、
ちょっと見当がつかない。
お棚を飾ると、お線香を上げに来る人がお香典やお供えを持ってきて
くれるので、それもお断りしなければ、と姉と話した。
しかし、家にずっと、二週間も、いるわけにもいかないので
やはり家には鍵を掛けて出かけるしかないだろう。
お線香を上げに来てくれる人がいれば、言ってもらって
鍵を開けてもらうように、姉に頼んだ。
あとはロウソクの火が、提灯の切り紙に燃え移って
火事になった前例があるので、その火には特に気をつけなければ、
ということで、ロウソクは置くのはやめて、
お線香に直接火をつけてもらうようにした。
昔はどの家にも年寄りがいて、こういう役を引き受けていたけれど
もう、そんなことも言っていられない。
妻もぼくも一緒に仕事に出かけるわけで、
そうなると線香番をする人間もいないのである。

とにかく十六日間に渡る、お棚の儀式が始まった。
お棚を飾ると、故人が帰ってきた気配がして
久しぶりに父親と接した気分になった。
話すというより、お互いの気配を察した、というほうが近い感じである。
生きているときも、男同士、積極的に話をするわけでもなかったので
それは今も変わらないのだろう。
そこにいるんだね、というような気持ちになった。
不思議な装置である。
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