日本で唯一の屋根に椿の木を植えた店舗から作家、社長、杜氏である谷口英久が綴る抱腹絶倒の「Blog」
お骨を拾ってもまだ。
24/Dec.2017 [Sun] 15:53
お骨を拾って、葬式も終えたのに、まだ夕方になると
病院に行こうとして、身体が身構える。
病院に行くのは仕込みとはまた違った力の入ることで
どうしても身構えて身体に力を入れないと、足が向かない。
しかし、もう葬儀も終えて、今は自宅にお骨を安置してあるので
そのまま家に帰って、線香を供えればいいのに、どうしても
朝や夕方になると、そのことを考えて身体が反応している。
麹を造る日は三日が必要で、その晩は工場に泊り込んで仕事をする。
こうして仕事をするようになって何年経つのか、もうはっきりしたことは
わからないけれど、夜中まで麹を見て、家に帰る途中で居眠り運転をしかけたことがあってから、家を借りることにした。
その家には簡単なベッドを二つ置いて、あとは食卓と台所、風呂も付いている。
安普請なので、冷気が家の中に容赦なく入ってきて、一度布団に潜り込むと
なかなか出ることが出来なくなる。
父が具合が悪くなってからは、夜中に電話が鳴ると驚いて目を覚ます。
一度は明け方に電話があって、びっくりして電話に出ると、従兄弟から
台風で道路わきの屋根のスレートが落ちかかっているから、気をつけるように
という内容でホッとした。
下を歩く人に重いスレートが落ちれば大変なことになるのだけれど、しかし
それでも、ホッとした。
父はときどきは病院で目を開けていることがあって、
「おーい」と話しかけると、目をぱちくりすることもあったし
何かを喋ろうとすることもあった。
途中からは酸素マスクを付けられて、そのゴムが伸びて、マスクははずれ掛けていることもよくあった。
もう、具合は明らかに良くないけれど、それでも次の日になると、また恢復していることもあった。
手や足はむくんで、喉の周りも水が溜まったようになって、そういうときはたいてい熱を出していた。
若いインターンの医者がちょっといいですか? と言って、病人のすぐ脇で大きな声で話し出すこともあった。
食道に出来ているがん細胞が脳にまで達していることが、昨日スキャンをして
わかったんです、と言った。
耳だって聞こえるし、声に明らかに反応しているのに、そんなことを大きな声で言うかなあ、と訝しく思った。
なによりこんなに具合の悪い人間をCTスキャン室まで連れて行って、あの轟音のする器械に潜らせたことにびっくりした。
そんなことをしなくても、もう長くないことは見ればわかるのに、と思いながら、(そうですか、ありがとうございました)と頭を下げて、お医者さんを廊下に引っ張って、そこで話しを聞いた。
麹に種を付けて、明日の朝にはもうタンクに出すことになっている夜中に電話が掛かってきて、姉からだった。
「今ね、呼吸が止まって、すぐに病院に来てくださいって連絡があった」
と言った。落ちついた低い声だった。
慌てて着替えて、一度工場に寄って、麹の様子を見てから、病院に向かった。
星が冷たい空にさえざえと光っていて、それを見上げた。
まだ額は熱かったけれど、もう息はしていなかった。
お骨を拾っているときに、死ぬってなんだろうな? と改めて思った。
生きていて、星を見上げて、今度はお骨になっている。
それはどういうことだろう? とまた昔から考えていることを改めて想った。
お坊さんは、三途の川を渡るときに、一本目の川はゆるやかに、それから急流に、最後は激流を渡ってあの世に行くのだ、と話していた。
しかし、死ぬということはどういうことか尋ねてみる気にはならなかった。
曹洞宗のお経の中に
「生を明らめ、死を明きらむるは仏家一大事の因縁なり」
というくだりが出てきて、そのことを、このお坊さんに訊いてみようかな?
といつも思う。
葬儀のときにはそのお経本を一緒に唱えるように、と言うのである。
しかし、どうしても、それを尋ねてみる気にはなれない。
それは自分で紐解くしかないのではないか? と思う。
亡くなって、葬儀が始まるまでに、お坊さんの都合や、友引が入って
二日ほど時間があった。
そのあいだに、工場に出かけては、麹を出してタンクに入れた。
翌日には麦を蒸して、仕込みをした。
よく喋る、叔母がいて、途切れなく喋っている。
父はこの妹が来ると、
「いつ帰るんだ?」
と訊いていた。
(うるさいから、もう帰れって言うことなのよ)
とその妹は、不満そうな、困ったような顔をして言っていた。
そんな人がたくさん来て、父の棺の周りであれこれ喋っている。
自分は賑やかなのはあまり得意ではないので、醗酵するもろみの
静かに浮かんでは消える泡を見つめているほうが、父と話しているような気持ちになった。

(お香典は戴いておりませんので、ご了承くださいますよう、お願い致します)
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コメント
とらさんの笑顔を思い出します。
ご冥福をお祈りいたします。
宮原 : URL : 27/Dec.2017 [Wed] 10:19 : wOlfJMMU : PAGE UP↑↑↑
宮原さん、ご丁寧にありがとうございます。
父も喜んでいることと思います。
どうぞこれからもよろしくお願い致します。
一円大王 : URL : 19/Jan.2018 [Fri] 18:04 : n7bMJH4M : PAGE UP↑↑↑
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