日本で唯一の屋根に椿の木を植えた店舗から作家、社長、杜氏である谷口英久が綴る抱腹絶倒の「Blog」
むせび泣く人。
16/Jul.2018 [Mon] 18:21
夕方、日が暮れ掛けている時間に家に帰ってくると
向こうから人が歩いてくるのが見えた。
島では歩く人は少なくて、たいていは近所に出かけるにも車を使う。
だから、島の人ではないのかな? と思った。
狭い道で顔を合わせて何にも言わないのも気持ちが悪いので
「こんばんは」
と声を掛けた。
すると
「あンたは誰?」
と訊かれた。
(うーん誰って言われても、単に挨拶をしただけなんだけど・・)
とも言えず、ちょっと困っていると
「トラさんのお孫さん?」
と訊かれた。
トラさんというのはぼくの父親なので
「いえ、息子です」
と答えた。
「え? お孫さんでしょう?」
とその初老の男性は言った。
短い髪の毛は白髪混じりで、立ち振る舞いからすると
島で暮らしている人ではないように見えた。
父親のことは知っていても、ぼくのことは知らないのだろう。
まあ、孫でも良いか、と思っていると
「お盆でお棚があればお参りしたいけど」
と言われた。
それで家に上がってもらって、お線香を上げてもらうことにした。
しかし、帰ってきたばかりで、家の中は暑くてたまらないだろう。
そう言うと、それでも構わないと言う。
父親の写真を見ると、その人は
「いやあ・・・良い写真だなあ・・・」
と声を詰まらせるようにして言った。
写真は店番をしている晩年の父の姿だった。
店のレジに立って、こちらを見てホンヤリ笑っている。
いつもこうしてレジに立って、店番をしていたので
遺影にもこの写真を使ったのだった。
ロウソクは置いていないので、ぼくがライターで
お線香に火をつけて、その人に手渡した。
すると、男性はなんだか声を詰まらせて
「トラさん、世話になったなあ・・」
と言って大声でこらえきれない、といったように泣いた。
「くっ・・・くうぅっ・・」
という声にならない声が部屋に響いた。
どう声を掛けたら良いのか、わからず、その人の隣に座って、
父の写真を一緒に見ていた。
「本当に良い人だったですよ。
去年も店で(帰ってくれば良いでえ)って言ってもらって
それで帰って来たのに・・」
とその男性は言った。
(良かったねえ)
と父の写真を見ながら、ぼくは大きな声で言った。
そうして頭を下げて、その人を見送った。
もうじきお盆も明けて、何もかも焼いてしまう日が来る。
生きているって何かなあ? と尋ねる人もいない。
同じく死ぬってどういうことかなあ? と尋ねる人もいない。
経験した父に訊いてみたいけれど、父はただ遺影の中で
笑っているだけである。
前歯が抜けてそれがチャーミングに見える。
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