この原稿は「焼酎スタイル 一期一食」ブログでも同時にリリースしております。このためブログ形式で3 日間に分けて書かれております。
あらかじめブログサイトをイメージしてお読みいただければ幸いです。


■東京都内の焼酎聖地を訪ねて〜その1「初日」

2006年夏。またひとつ念願が叶いました。
憧れの焼酎の蔵元さんを直接訪ねることができたのです。
訪問先はいつも愛飲している「御神火」の谷口さんの椿城。
焼酎の聖地といえば、芋なら鹿児島・宮崎。米や麦ならその他九州各地。
泡盛や黒糖焼酎でいえば、沖縄や奄美諸島。
もっともここ数年の焼酎ブームで、産地の裾野があらたな地域でも多様に広がりつつあります。
食文化の宿命たる進化ですね。
ちなみについ最近までは芋焼酎といえば、47都道府県のうち、わずか3つの地域でのみつくられていました。鹿児島、宮崎、そして東京です。 そうです、実は東京都内でもしっかり芋焼酎をつくっている生産者がいらっしゃるのでした。
都内といえども舞台は伊豆七島。
ここでは、大島を筆頭に神津島・新島・八丈島で。
加えて青ヶ島でもつくられています(この島でつくられる「青酎」は独創的な味わいの芋焼酎です)。
各島の環境に応じて独自の食文化として焼酎文化も幕末から100数十年にわたって島の酒としてそだってきたようです。
参考までにですが、伊豆の島焼酎の特徴としてあげられるのが、麦麹で仕込むことがあげられます。
九州の多くの焼酎が米麹でつくられるのに対して、明確な違いがあります。この違いが味わいを差別化しています。個人的にはいずれもおいしく頂いておりますが。
ちなみに八丈島で江戸時代から芋焼酎がつくられるようになったキッカケは流人として、鹿児島から島入りした丹宗庄右衛門さんが鹿児島から焼酎製造goods を取り寄せてその製法を伝授したことなんです。1850 年代以降のことです。(※参考文献:焼酎楽園NO.16)鹿児島の聖地にはいずれ足を運びたいとおもっていますが(確固たる意思)まずは都民として、足元の蔵元さん、それも大好きな御神火をつくっている生産者と交流して、大島焼酎の蔵の「今」をこの目にしっかりと焼き付けておこうとフェリーに乗り込んだのでした。

※御神火と称される島の顔である三原山はこちらです。続く〜(ノ^^)八(^^ )ノ


御神火の三原山はこちら


■大島内でのダレヤメ

・大島宿泊中の夜ご飯はホテルにて。

お供はもちろん、御神火です。島スタイルで氷入りの水割りで楽しんでました。
麦の香ばしい風味が魅力です。


■東京都内の焼酎聖地を訪ねて〜その2「二日目」

いざ鎌倉!の心境でいざ谷口酒造さんへ。
訪問当日は大島は台風の影響で豪雨状態。
かねてから憧れの地へ足をやっと運べる期待感.のため豪雨ぐらいでは一切の気持ちに怯みはありません。
心のなかを覗けばまるで遠足の前日、わくわくして眠れない少年の夜時間のようです(笑)。


※レンタカーの中からの撮った谷口酒造さんご案内の看板で辿り着きました。

まずは目に焼き付けるツバキ城。

2000 年秋に完成したこの建物は、屋根には土が盛ってあり、そこには芝が植えてあり、その頂上には大島のシンボル、ツバキがしっかりと根をおろしていました。
田舎で茅葺屋根の上に雑草やお花が咲いて、小さな野原ができている風景をたまに目にしますが、この建物も四季折々表情を変えることが可能な生きている建物なのです。
谷口さんはこの建物に植え込んである芝生を今年は種から育てようと試みているそう。
育っているものを買えば簡単ですが、種から芝生を発芽させて、ツバキ城に植えて、自らの手で育てていくご計画のようです。
この視点が谷口さんにある限りこのお城は自然のなかでよりらしく進化を遂げて、オーナーとともに生き続けていくのでしょう。

下の写真は、谷口さんに見せていただいた芽吹いている芝生たち。

ささやかながら逞しい生命を感じます。

お城の内部では、手仕事で塗られた漆喰が自然な白い色を美しく演出しています。
これは谷口さんたちによる作業の代物だそう。
説明をしていただけるのは、谷口さんのパートナー、香さん。
香さんが顔となって来訪者をあたたかくむかえてくれます。
そうそう、豪雨のなか訪問した私に、帰るときには傘をもたせてくれた香さん。
細やかなお心遣いが今でも強く印象に残っています。ありがとうございました。
ちなみに香さんは焼酎専門雑誌「焼酎楽園」で"椿の島の小さな蔵から"という連載を数年前に執筆されていました。
4回にわたって大島の旬の移ろいを描写されていて、いつかはいってみたいと行間から伊豆大島の四季のイメージを膨らませながら読んだものです。

ここツバキ城では、谷口さんの通常焼酎ラインナップに加え、通販やここでしか買えない焼酎を購入こともできます。







御神火の試飲もできますが、ここでつかう器は大島で焼いたものとのこと。 物見遊山の心境も多分にまざった来訪者にはキメの細かい心配りです。







また焼酎を作る過程をおさめたアルバムをみたり、会話を楽しんだり。
谷口さんが掲載されている雑誌を読ませてもらったり。
東京焼酎聖地の時間を自分なりにゆったりと過すことができました!

しばらくしてから谷口さんがご登場。
ほぼお一人でお仕事をされているので現在は特に見学等受付されていないようですが、お仕事の合間をぬって、蔵のなかを恐れ多くもご案内いただきました。
貴重な時間を費やしていただき大変恐縮です。
ありがとうございます、谷口さん。感謝です。


■東京都内の焼酎聖地を訪ねて〜その3「二日目」

谷口さんがいよいよ登場。
恐縮ながらお仕事中の谷口さんとお話をさせていただきました。
まずはビンにラベルを貼る作業をしながら。
谷口さんは口を動かしながら手際のよい所作で、ビンにラベルをはりこんでいきます。
実に地道なお仕事です。
大島島内では、御神火のビンはリユースしているそう。
ビンを回収して、ラベルをはがして、洗って…。
それも工場のなかで一人での作業。
本当におつかれさまです。







御神火を飲むときにはビンのムコウ側に谷口さんがラベルを貼りこんでいる姿が思い浮かぶようになりました。
環境配慮へより細やかな対応が必要なこの時代に、焼酎を飲むときにもできる限りの自分なり考えをきちんと整理したうえで、選択をしたいもの。
がんばっている方は純粋に応援したいという気持ちで。
どうせ飲むなら、焼酎をつくる側の姿勢、多様な価値観もより焼酎ワールドを深く掘り下げて楽しみたいという意味で、選択の折には意識しておきたいとあらためて思ってます。
ラベルの話題へ戻ります。ビンが旅をしてまたに谷口さんのもとへもどって。
それをまた再生させるときに作業がしやすいよう「ヤマトノリ」を貼り付けにつかっているそう。
小学生のころ図画工作でも使ったことを思い出しました。
ざっくばらんにいろんなお話もしました。

話題はいろいろ。
●焼酎の税金が値上がりすること。
●灯油の料金の値上がりの影響。
●島内の焼酎の流通について。
●つばき城について。
●焼酎をつくるプロセスのこと。
などなど。どの話題も新鮮でしたね。

なかでも石油の値上のお話は深刻です・・・っていうかひとごとではありません。
翻って考えてみても焼酎製造には石油エネルギーの利用が欠かせないですよね。
麦を蒸すとき。
蒸留するときもそう。
灯油も1リットル以前52円だったものが今、なんと92円。実に1.8倍。
これだけ値段が違えば、製造経費にも多大な影響があることでしょう。
焼酎製造も一企業としての「経営」が必要です。それだけに深刻な問題です。
世の中のエネルギー問題と焼酎が日常的にはあまり結びついていなかったけれど、谷口さんの訪問をしたことで、より多面的な角度から焼酎をみつめるようになりました。

話はかわって。タンクです〜。
この迫力。
琺瑯(ほうろう)のタンク。
今は入手できないような年季のはいった代物。


大島の歴史がしみこんでいるこのタンクに焼酎たちは静かにねむっているんです。
ビンのなかに流し込まれて、御神火ファンに飲んでもらうその日をじっと待っているんです。
待ちわびながらも熟成を重ねてよりまろやかな味へと日々自然のリズムで進化をつづけています。



タンクの上に登らせていただきました。
ふたをそっとあけてみると・・・・エメラルドグリーンの湖面に点々と浮いているものがあります。
これは「フーゼル油」です。
酵母がアルコール発酵するときに副産物で、ここには焼酎のうまみがつまっているそう。
いわゆる無濾過の焼酎にはフーぜル油が含まれています。
話には聞いていたけど、生のフーゼルをみたのは初めて。タンクをみたのも初めてだけれど(笑)

いくつかのタンクをのぼらせていただいてから。
もういっぽうの工場へ。

こちらでは焼酎を熟成させるまでのすべての工程が展開される聖域。
ほとんどの作業をおひとりで行うために、台所を世の中のお母さん方が動きやすいように自分だけの作業領域として機能的に整理するがごとく谷口さん仕様の機能的なスペースとなってます。




谷口さんはモロミを発酵させるときにモーツァルトのレクイエムを聞かせることで有名。
写真ではみたことがあるひょうたんのスピーカーもあった。これがあのお手製の…。
恐れ多くも工場内で「レクイエム」を実際に聞かせていただきました。
「レクイエム」は知っている人は知っているとおもいますが、決して明るい曲調とはいえない(むしろ暗い場面が多い)曲ですが、この工場内で聴くと不思議ときもちがおちつく安堵感がありました。
焼酎を熟成させるときにクラッシックを聞かせる音響熟成のシステムを導入している蔵元さんはいくつかあるけど「レクイエム」を酵母が活躍する発酵時に聴かせるのは谷口さんらしいなと思いました。

工場の傍らにはあの谷口さんの著書「一円大王」を執筆した机もありました。
仕込みの多忙時には、生と死の狭間のギリギリの精神状態のなかで、焼酎をつくっていると語る谷口さん。
精神的にも肉体的にも追い詰められながらの作業のなかで、机に自らの文章をつづることで気持ちのバランスをとっていたのかもしれないのかなって。ふと思いました。
造りの重い気持ちを奮い立たせるには所謂。癒し系のモーツアルトではなく宗教音楽的側面から、迫力満点の狂おしいかのようなモーツェルトの曲調が場に適合するのかもしれない・・・・と素人ながら勝手に考えてみちゃいました(笑)

焼酎を製造する機器達。

あの有名なメーカーさんのお名前も。



谷口さんには貴重なお時間をさいていただき心から感謝します。
またこの訪問をキッカケに、御神火には焼酎を命懸けでつくる生産者の生き様を感じながら飲んでます。
焼酎をつくることと、文章を書くことしかできないと謙虚に語る谷口さん。
私からいわせればプロとしての生業を二つもっていること、それだけですでに偉大におもえます。
自らの生き様を焼酎という飲み物を通して磨き上げられた鋭くも豊かな感性で作品を毎年世の中へ発表している谷口さん。
焼酎の生産者として、多様なアーティストとして、これからもマイペースでご活躍をいただきたいものです。
谷口さんの気負いのない背中をみて、自分なりに焼酎という二文字をキーワードとしてなにができるのか、考えるテーマをいくつかもちかえることができました〜。

一日をふりかえって心を静め、ゆるめるダレヤメの時間。
焼酎を飲むだけでなく、ビンのムコウに果てしなく展開しているドラマをよりリアルに感じながら飲めるようになりました。
御神火という作品には、生産者の魂や息吹が吹き込まれているのだと。
ちょっと大きい表現をすると、持続可能な社会をつくるために焼酎の飲み手としてなにができるのか、今後つきつめて考えてみたい・・・と思うようにいたりました。



東京都内の焼酎聖地を訪ねる旅はこれでピリオドです。
3回分ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

今日のダレヤメはもちろん、御神火、氷をグラスにめいっぱい浮かべ上から豪放磊落に御神火を そそいでみました。ふわっとただよう御神火の香ばしい風味。至福の味わいです。




2006 年11 月12 日
東京都内の焼酎聖地を訪ねて
町田 正英

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